long story 2
□『死神の下り立つ時』
3.光獅の心
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一輝と零紀の力が目覚めてから一夜が明けた。
検査の結果、特に異常はなかったので一輝は家に帰った。だが零紀は運ばれた状態が状態だったので、念の為もう一日病院に残ることになった。
一輝は心配したが、零紀がにっこり笑って大丈夫と言った為少し落ち着いた。
死神に付き添われ、一輝は家に帰った。死神は家に送り届けると、そのまま一輝の家を後にした。
時計は現在十時半。今から行っても午前中の授業には間に合わない。仕方ないのでメールで友達にノートを頼む。
一段落すると一輝は大学へ行く準備を始めた。
しかしそこで重要なことに気づく。今日提出のレポートがあったのである。昨夜、零紀が戻ってきたら手伝ってもらおうと思っていたのだ。
一輝はどうしようか悩んだ。今さら零紀に手伝ってもらいに病院に行くのもなんである。
仕方なく早めに大学に行って作成ことにした。支度をするとすぐに家を出る。
図書館で必要な本を借り、学食でしこしこ書く。しかしすぐに集中力が途切れ、伸びをした。
「ああー、終わんねー」
その時誰かの手が一輝のレポートに伸びた。
「悲しい位真っ白なレポートだな」
びっくりして視線を前に戻すと、目の前に死神がいた。
「死神!?」
「んなびっくりするなよ。俺にだって人間としての生活はあるぞ。それと、こういうところでは蒼霧聖でよろしく」
その時また誰かが聖の手から一輝のレポートを奪った。
「本当、真っ白だな」
二人一斉に声をした方を見る。
「ミカエル。おまえなんでここいるんだよ」
「それはおまえも同じだろう」
二人のやり取りに一輝が驚く。
「…知り合いなの?」
「あ、ああ、同じ学部なんだ」
「何学部…?」
「医学部」
一輝は黙り込む。
「いいなあ…。頭良くて。俺は全然だから。記憶するの弱いんだよね」
寂しそうな顔をする一輝を二人は見つめた。
「軽い記憶障害があってさ。一週間位経つと忘れていっちゃうだ」
「そうか…それは大変だな」
聖がつぶやくように言った。対するミカエルは険しい表情で一輝を見つめた。
「そうだ。レポート手伝ってくれない?それ今日の三限に提出なんだ」
「別にいいけど…」
聖の言葉をミカエルが遮る。
「じゃあさ、昼飯おごってよ」
苦笑いする一輝。
「いいよ。蒼霧は?」
「飲み物位あると嬉しいな。あと名前の呼び捨てでいい」
「わかった、聖。それじゃあ二人ともお願い」
こうして昼食と飲み物をひきかえに、一輝は二人に手伝ってもらい、レポートを書き上げた。
一輝が昼食を買いにいった時、聖はミカエルに言った。
「いつまでつけてるつもりだ?」
「あいつを殺すまでいつまでも。親の仇だからな。他の誰にもやらせはしない。俺の手で葬り去ってやる」
ミカエルの目は憎しみでギラついていた。聖はしばし黙った。
「あまり言いたくないが、明人を泣かせるような真似はするなよ」
「何でそこであいつが出てくる」
不機嫌そうに言うミカエル。
「少なくともおまえの仲間で、家族だろう」
「はっ、形ばかりだよ」
聖は何か言おうとしたが止めた。一輝が戻ってきたのだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
言い繕う聖に、不機嫌極まりない顔で黙るミカエル。明らかに不自然だった。
しかし昼休みもあまり時間がなかったので、一輝はそれ以上追及しなかった。
昼休みが終わる頃、三人は別れた。
その日の夕方、聖は一人屋上に座っていた。ちょうど役目果たしたすぐ後。まだその時の感触が残っている。
「あんたに復讐する為にこれだけの力をつけたのよ」
相手はまだ小学三年生の女の子。魔に堕ち、聖に殺された姉の復讐をする為、自身もまた魔に堕ちた。
聖はやりきれず、膝を抱えた。
その姿を出入り口のドアから一輝が見つめた。途中で見かけ、追いかけてきたのだ。
その時、聖に一人の男が近づいた。
「珍しく落ち込んでいるじゃないか」
しかし聖は答えない。男は聖の隣に座った。
その時一輝は人の気配を感じて振り返った。そこにはミカエルの姿があった。
声を上げそうになった一輝をミカエルが押さえる。そして一緒に屋上を覗く。
「そんなに辛いなら泣いてしまいなよ。今のところここには僕しかいない」
男は聖の肩を抱いた。聖の肩が小刻みに震える。男は聖が落ち着くまでそのままでいた。
しばらくすると聖が顔を上げ、口を開いた。
「今日は姉の復讐を遂げる為に魔に堕ちた女の子だった。…なあ、明人。あいつもそうなのかな。復讐の為にずっと追い続けるのかな」
明人と呼ばれた男はよく意味がわからず、聞き返した。
「あいつって?」
「ミカエル。いや、光獅のこと」
明人は少し黙る。
「何かあったの?」