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□『SUN×MOONシリーズ』
 「陽月の輝き」
 1.暗雲来る
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「ハッピーバースデートゥーユ〜ハッピーバースデートゥーユ〜」
 誕生日を祝う歌が部屋中に響く。主役はまだ幼い女の子。目の前の机にはケーキが置かれ、六本のろうそくが灯っている。
「…ハッピーバースデートゥーユ〜」
 歌が終わると女の子はろうそくに息を吹きかけ、一回で消す。両親とその友人である男性はパチパチと拍手をした。
 全部ろうそくを消したことに得意そうな顔をしていた女の子だったが一瞬にして笑顔になる。両親達も笑顔になる。
 この幸せが壊れるなどこの時誰も思わなかった。





 ある日の会社からの帰り道。晴日は後ろから何者かにつけられているのを感じた。どうしようかと思ったものの内に強い殺気を隠し、また知り合いの雰囲気とどこか似ていた。
 迎え撃つことにして人気のない路地へと入る。つけている者もそれに倣ってついてきた。そしてその足が止まると振り向いた。
「おまえは…なぜここに…」
 驚きで晴日はそうとしか言えなかった。いるはずのない男だったから。
「ホント苦労したぜ。ここまで来んの」
 ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべていた男だったが次第に体に紫の光が宿っていく。それを見て慌てて晴日も身構えた。
「お兄は返してもらうぜ」
 男から大きな紫の光の刃が放たれた。晴日もまた紅い光を放つが、今日は日が悪かった。晴日の力はかき消され、右の肩から袈裟懸けに腰の辺りまで傷が刻まれる。そのまま仰向けに倒れた。
 つけていた男は晴日が倒れたのを見てフッと一瞬にして姿を消す。晴日は喘ぎながらある男の姿を思い浮かべた。
「観月…」
 それを最後に晴日の意識は闇へと溶けた。

 同じ日。観月も変わらない一日を過ごしていた。朝起きて、妻である陽世が作った朝ご飯を食べて、出社して、仕事して、帰宅して、夕ご飯ができるまで娘の陽月と過ごす。
 だがそこからがいつもと違った。いつも感じていた存在が急速に弱くなっていくのを感じ取ったのである。びっくりして神経を集中する。
「晴日…」
 消えかけているのが間違いないことを確認すると、自分の部屋へと戻り、携帯電話を取り出した。かけた先は…救急だった。名前と住所を伝えて出動してもらうよう要請する。それが済むと観月は外へ行く準備を始めた。陽世はびっくりした。
「どうしたの?観月」
「うん、ちょっと」
 観月の様子が変なことに気付き、陽世は肩に触れる。
「何があったの?」
 まっすぐ見つめられて黙り込む観月。しばらく沈黙が流れたものの着信音がそれを破った。観月はすぐに電話に出る。電話を切った観月に陽世はもう一度声をかけた。
「観月…何があったの?」
 観念して観月は口を開いた。
「晴日が大怪我して病院に運ばれた」
「え!?」
「だからちょっと行ってくる」
 走り出そうとする観月の腕を陽世はつかんだ。
「私達も行く」
「だけどまだ夕ご飯が…少なくとも陽月はちゃんと食べさせないと」
「途中で何か買っていけばいいでしょ。それより晴日さんのほうが気になる」
 陽世の言葉に観月は折れた。
「じゃあ…行こう」
 すぐに陽世と陽月も支度して家を出た。
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