middle story
□『SUN×MOONシリーズ』
「満月の夜の秘密」
3.今生の決意
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観月に告白されてから数日が経った。しかし未だに陽世は観月に答えを出してなかった。
観月はというと、特にそれを気にしている様子もない。そもそも今まで気まずい状況になっても、その態度が変わることがなかったが。
そんな中、新たな噂が持ち上がっていた。
「通り魔?」
「うん、そう」
昼休み、一緒にランチを食べていた燈子が話し出す。
「この会社の近くで最近頻発してるんだって。数日前もカフェのほうであったみたいだよ」
「うわぁ、すぐ近くじゃん。怖いね」
尚美が大げさに震え上がってみせた。
「だからさ。一緒に帰れる日は帰るようにしない?」
「うん、そうしよう」
「陽世は?」
ちょっと考えつつも頷いた。
「そうだね」
ということで、その日から三人で帰るようにし始めた。
それから数日経つ頃、陽世は観月に声をかけられた。
「桂川さん。ちょっといいかな」
「はい…」
言われる内容がわかる為、少しうつむいた。
「あんまり焦らす気はないけど、答えははっきり教えてね」
「はい」
観月は寂しそうに微笑んだ。
「そんな顔させたいわけじゃないんだけどな。ほら、二人が待ってるよ」
陽世が顔を上げると燈子と尚美の姿が目に入る。陽世は観月に軽く頭を下げると、二人に駆け寄った。
その日の帰り道、燈子が陽世に聞いてきた。
「加瀬さんと何かあったの?」
「うん…ちょっと」
「あまり言いたくはないけどさ。やっぱりちょっと心配な部分もあるからさ」
陽世は黙っていた。
「人当たりはいいし、普段はさわやかだけど、その分得体がしれないよね」
尚美の言葉もまた黙って聞いていた。
その時何かを感じて陽世は振り返る。その目にギラリと光るものが目に入る。とっさに二人を突き飛ばしていた。
少し離れてよく見ると、大きな男が包丁を持って立っていた。やがてゆっくりこっちを向く。その目は虚ろで現実を映してるのか定かではない。
男は三人に狙いをつけて向かってきた。燈子と尚美はさっき突き飛ばされた時転んだまま恐怖で動けなくなっている。陽世は二人の前に立ちふさがった。
「陽世!私達のことはいいから逃げて!!」
だけど陽世は動かなかった。包丁をふり下ろされるのを見て、ギュッと目をつぶる。でもいつまで経っても痛みはなかった。
恐る恐る目を開けた瞬間、別の意味でゾクリとした。観月が男が持っている包丁の刃を握ってとめていたのだ。赤い滴がポタポタと地面に落ちている。
そして観月は満月でもないのに、とても冷たい空気をまとっていた。
「ずいぶんと物騒な物を振り回していますね。でも、彼女達を傷つけさせるわけにはいきません、からね!」
観月は男に胸に肘鉄をくらわせた。だが少し後ろに後ずさっただけだった。
小さく舌打ちをすると観月は陽世の前に立ち、少し後ろを振り返りながら言う。
「二人を連れてここから離れて」
陽世が動けないでいると観月は叫んだ。
「早く!」
その時呻き声が聞こえて、観月と陽世は前を見る。グラリと倒れる男の体。その後ろから現れたのは…
「晴日」
「ったく。少し無理し過ぎじゃないか」
「別に大丈…」
観月の体がふらつく。観月は踏ん張ろうとしたが、足から力が抜けていく。陽世は無意識のうちに手を伸ばしていた。
観月はどうにか陽世の腕に収まったものの、浅い息を繰り返すばかり。
「言わんこっちゃない。鹿島、宮岸、警察呼んで」
「は、はい!」
燈子が携帯を取り出す。晴日も携帯を取り出し、救急車を呼んだ。
「今救急車来るからな。安心して」
頷いてみせたものの、陽世は観月のことが気が気ではなかった。