middle story

□『SUN×MOONシリーズ』
 「満月の夜の秘密」
 2.過去と今と
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 その後、観月と陽世はただの先輩と後輩の関係に戻っていった。
 穏やかに繰り返される日常。しかし突然、異変が現れた。
 いきなり怒鳴り声が聞こえてビクッとすると、観月が怒られていたのである。肩をすぼめて小さくなり、説教をただただ聞いている。
 その横顔を見ながら、あまりに青ざめている為陽世は胸騒ぎを覚えた。席に戻ってもその様子は変わらない。
 陽世は悩んだ。奇しくも今日は満月。
 あれから数ヶ月が経ち、あの時の気持ちは薄れてきている。それでも…
 陽世の中で二つの思いがせめぎあい、結局、あの埠頭に行くことにした。

 埠頭に観月は座っていたが、その背中が丸まり、小さく見えた。
「加瀬さん…」
 ピクリと肩が反応する。
「何があったかは知りませんけど…大丈夫ですか?」
 だけど返事は返ってこない。陽世は観月に近づいていった。
「加瀬さ…きゃっ!」
 いきなり腕を引っ張られたかと思うと、気づいた時には仰向けにされていた。そして自分に影を落とす主を見上げる。
「か、加瀬、さん?」
 そう言う間に上から水滴がポタポタと落ちてきた。観月は涙を流していた。
 陽世が呆気にとられ何もできないでいると、観月は不意に陽世のあごをつかみ、唇を塞ぐ。
「んんっ!」
 観月は激しく陽世の唇を求め、その間にも慣れた手つきで陽世のシャツのボタンを外していく。
 本気で抱くつもりだと感じた陽世はどうにか止めないとと思って観月を押し返そうとした。だがびくともしない。キスのせいで体の力が抜け、思考が奪われていく。
 とりあえずキスから逃れようと陽世は観月の頭を両手でつかんで横へとずらし、ギュッと腕に力を込めた。
 抵抗するかと思ったが、観月は陽世にされるがまま動かない。陽世はそのままでどうにか息を整える。
「桂川さん」
 今日ここに来てから観月が初めて言葉を発した。ドキドキしながら陽世は腕を解く。観月は起き上がると、くるりと背を向けた。
「行って。このままここにいられたら、君を抱かない保障ができない」
 陽世はさすがに戸惑った。この状態の観月を一人にしていいものかと。
「さあ、行って」
 観月の言葉に促されて、あの日のように陽世は歩き出した。
 しかし数歩進んだところで立ち止まり、振り返って観月を見る。座って肩を落とすその後ろ姿がやっぱり物悲しい。
 陽世は観月のところまで走り、後ろから抱きしめた。観月はやはりそのままされるがまま。
 その時観月の体が陽世のほうに倒れ込んできて、慌てて支えた。観月は涙の跡を残したまま、眠っていた。
 少年のようなあどけなさの残る寝顔。その表情に胸をキュッとつかまれながらも陽世は支えられるように体勢を整え、観月の体を抱きしめる。

 …それから数時間が経ち、終電が近くなる頃、陽世は観月に声をかけた。
「加瀬さん。もうすぐ終電ですけど…帰りませんか?」
 陽世の声にうっすら目を開ける観月。
「加瀬さん?」
「…何で、君が彼女じゃないんだろう。こんなに…よく似ているのに」
 観月の言葉に陽世はびっくりした。
「彼女?加瀬さん、彼女いるんですか?」
「前世からの恋人のこと。つながりはいつも感じられるけど、どこにいるかまでちゃんとわかるのは満月の夜だけでね。基本的に探せるのはこの時間だけなんだ。ちなみにここに来るのは力が溢れていて、探しやすいから」
 突然告白された突飛な内容に陽世は言葉が出ない。観月はくすくすと笑った。
「まあ、それが普通の反応だよね。でも…今ね。彼女の存在が感じられないんだ」
「え?」
「死んじゃったみたい」
 言葉が出ない陽世。そして同時に観月の様子が変だった理由を悟る。
「長くないのはわかってたことなんだけど、会えなかったことが悲しくて、そしてこれからどうすればいいかわからなくなった」
 何も言えず、陽世はうつむいた。観月は弱々しく笑うと体を起こした。
「ありがとう。今日はそばにいてくれて。少しは落ち着いたから、もう帰って」
「それなら加瀬さんも一緒に…」
「ちょっと一人で考えたいんだ。明日は無理かも知れないけど、明後日はちゃんと会社に行くから」
 そう言われてさすがに何も言えなくなる。
「わかりました…」
「ごめんね。…おやすみ」
「おやすみなさい」
 そう返すと、後ろ髪をひかれながらも、家路についた。
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