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□『SUN×MOONシリーズ』
 「満月の夜の秘密」
 1.魔性の裏の顔
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 その日の朝。陽世は全身を鏡に映し、しっかりとチェックをしていた。
 今日の日の為に新調した、茶を基調とした落ち着いた風合いの洋服。メイクはナチュラルメイクで華美にならないようにして、髪はしっかりとブローを施して整えた。
「よし!完璧」
 パッと身を翻すと、こちらも新調したバッグを持ってリビングへと向かう。
 そしてコーヒーとサンドイッチで軽く朝ごはんを食べると、家を出た。

 桂川陽世。二十二歳。
 社会人一年生で本日初出社。
 これから始まる日々に心ときめかせていた。

「おはようございまーす!」
 元気よくあいさつしながらタイムカードを打刻する。
「おはよう。朝から元気だね。桂川さん」
 その声に陽世の鼓動が跳ねた。
「はい、元気です!」
 声をかけてきた先輩である加瀬観月に元気よく返す。
 実は研修の時に一目ぼれして、密かに想っていた。
 陽世の言葉に観月はにっこり笑う。その笑顔にまた陽世の鼓動が跳ねた。
「おはようございます。加瀬さん。どうかされたんですか?」
 別の女の声が割って入ってきた。思わず陽世はその女を見る。同期の鹿島燈子だった。
「桂川さんが元気だなって思って」
「私も朝は大丈夫ですよ」
 燈子はにっこり笑った。陽世も負けずに何か言おうとした時…
「朝っぱらからうるさい。もうすぐ始業時間なんだから、自分の席について準備をしろ」
 三人の様子を見ていた観月と同期の東堂湊が低い声で言う。
「はい、すいません。じゃあ、加瀬さん、失礼します」
 燈子が会釈をして去っていくのを見て、陽世も慌てて会釈をした。
「私も戻りますね」
「うん、またね」
 自分の席に戻って準備をしていると、ドタドタと誰かが走ってくる音が聞こえた。顔を上げてタイムカードを置いてあるほうを見ると、同期の宮岸尚美が打刻しているのが見えた。
「あちゃ、間にあったけど本当にギリギリだ」
「十分くらいは前に来て、仕事の準備をしなくちゃだめよ。宮岸さん」
 観月、湊と同期の斉藤幸がやんわりと注意をした。尚美はさすがにちょっとしゅんとしながら頷く。
 すぐに始業時間となり、早速仕事が始まった。

 それから数日後の夜、新社員歓迎会が行われた。今回も陽世と燈子の間で火花が散ったが、結局観月の両隣にそれぞれ座ることでどうにかなった。
「両手に花だな。観月」
 なぜか出席していた別の部署の一条晴日がからかう。
「別に…って言うか、晴日、今年もまた来たの?」
「いいじゃないか」
「一応、おまえは別部署に移ったはずでは?」
 呆れたように言う湊に幸がくすくす笑う。
「まあ、いいじゃない。今日位は。早く始めましょう」
 と言うことで歓迎会が始まった。しばらくするとみんないい顔色になってきて、話も弾む。ただ…
「加瀬さん、ほとんど顔変わりませんね」
「ああ、不思議がられるけど、結構強いみたい」
「そうなんですか」
 観月とも話せて陽世は楽しい時間を過ごした。その途中、お手洗いに立った時不意に幸から声をかけられた。
「桂川さん」
「はい?」
「桂川さんは加瀬君のこと、好きなの?」
 単刀直入に言われ、少し顔を赤らめた。
「じゃあ、一つ忠告。満月の夜だけは、会いに行っちゃだめよ」
「はい?」
「本当はあまり深入りしないほうがいいと思うけど、無理だろうから」
 陽世は幸を見つめた。
「斉藤さん、もしかして加瀬さんのこと…」
「そうじゃないの。ただ彼は今見えている顔だけじゃないの。満月の夜はそれがわかってしまうのよ」
「別に私は大丈夫です」
 幸は寂しそうに微笑む。
「とりあえず、伝えるだけ伝えたからね」
「はあ…」
 そのまま幸は戻っていった。陽世は突然言われた忠告に、しばし呆然として立ち尽くした。
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