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□『約束の言葉シリーズ』
 黒の約束
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 恭と冴が故郷に帰る前日。二人の送別会をすることになっていた。もちろん主催者は照。杏里に手を借りながら準備を進めていった。
 他出席者は杏里のサークルの先輩である雁金、冴の契約相手だった健人、その恋人である沙里奈。全部で五人。二ヶ月程の滞在期間を考えると少なくもない気がした。
 送別会の会場は個室のある居酒屋で、集合時間の十八時の少し前から少しずつ集まり始めた。そして十八時ちょうどに雁金がやって来て、全員が揃った。
「全員揃ったみたいですね。それでは恭と冴の送別会を始めます…と行きたいところですが、特別ゲストがいるので呼びます」
 照はそう言うと一旦個室を出て、一組の男女を連れてきた。二人を見て恭の目が丸くなる。
「何で…?」
「声をかけたら睦美さんが応えてくれてね。義男さんもその思いを尊重して、同伴で恭の隣の席じゃなければ出席するって言ってくれたんだ」
 恭は驚きの表情のまま二人を見つめる。その間に二人は席に着いた。
「じゃあ、改めて送別会を始めます!」
 照は明るくそう言った。乾杯から始まり、出される料理を楽しむ。最初はぎこちなかった場の空気も、お酒か入ったこともあり次第に打ち解けていった。

 一時間も経つ頃、不意に雁金がこんなことを聞いた。
「そういえば、斎木の実家の近くの山にいる鬼って白鬼、赤鬼、青鬼だけ?」
「さあ…私はわからないですけど…照、どうなの?」
 杏里は照のことを見た。悲しそうな顔をしていた為杏里のほうが驚いてしまう。
「ちょっと照!?だ、大丈夫」
「うん」
「…いけないこと、聞いちゃったかな?」
 さすがに質問した本人である雁金も少し慌てる。
「いけないわけじゃないんですけど…」
 言いにくそうに冴が口を挟む。恭でさえ、辛そうな表情だった。場の空気がどんより重くなる。
「…約束を交わしてくれた人、そしてその人に関わった人達。もう一つ、約束を交わしてくれませんか?」
 懇願するような照の声。そこへ唯一冷静な義男の声が響く。
「その約束とは?」
「本当は黒鬼がいたんです。その黒鬼の話を聞いて、できるだけ覚えていてほしいんです」
 冴が言葉を継ぐ。
「別にそのくらいならいいけど…というか何でそんな顔するの?」
 不思議そうに言う沙里奈に恭が冷たく言い放つ。
「槙は死んじまってんだ」
 その一言に空気が凍りついた。
「…恭の言うことは事実です。でもその内容は…残酷なものではないですから…約束、交わしてもらえませんか?」
 しばらく沈黙が続いた。
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