middle story

□『yu-kana』
 2.ただいま修行中
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 昼間の教室。佑太は爆睡していた。現在授業中。本来なら注意すべき先生もあきらめたように授業を続ける。佑太の机の上には小さなバスケットが置いてあった。その中には産毛に包まれ始めた雛がいる。時々動くものの、ほぼ佑太と同じく眠っていた。その様子を加奈は心配そうに、明星や佑太の友達は仕方ないという顔で見つめた。
 事の発端は数日前。加奈が落ち着きを取り戻し始めていたので、明星が霊力のことについて詳しく聞いたことに始まる。
「加奈はいつから霊力使えたの?」
「物心ついた時には。その時には犬君がいたから」
「結構早いんだね」
明星は少し驚いたように言った。
「まあ、私の場合生まれつきだから。私の手に埋まっていた石は、本当はどこかの神社の神器でどうやらその系譜を私は継いでしまったらしいの」
「そうなんだ。でもそれだったらあの石割っちゃってよかったの?」
明星の言葉に加奈は一瞬黙った。
「よくはないけど…もう自分でどうにもできなかったから。でもいずれは何かの媒体に力を移せればと思ってる」
「ふうん。そう言えば神谷の場合はどうなの?」
「祐太は…素質は持ってるけど使えなかったんだよね。またその力が大きかったからかなり珍しいタイプかな。そう言えば…佑太」
加奈に呼ばれて、友達と話していた佑太が振り返る。
「なんだ?加奈」
「佑太はちゃんと力使える?」
突然の加奈の言葉に佑太は驚いた表情をする。
「一応言霊は使えるけど、他はよくわかんない。特にもらった力はよくはな」
加奈は少々考え込む。
「力をもらって、元々の力も目覚めちゃったから、一度ちゃんと把握したほうがいいかもしれない」
と言うことで。放課後早速加奈により佑太の霊力のテストが始められた。その結果…
「きちんと使いこなせるようになったほうがいいね。力のロスが今のままだとかなり大きいから。力の属性は違うけど、形は似ているから、とりあえず私のやり方でいこうか」
そしてすぐに加奈の教えを請いながら、佑太は力を具現化させてみた。それで生まれたのがあの雛。一応名前は伊里とつけた。ここまではよかったが。状態が安定していないので、しばらく伊里を具現化したままにする必要があったのだが、それにはとんでもない位エネルギーが必要だったのである。おかげでずっと寝不足状態に佑太は陥ってしまった。家で休んでいるほうがいいとも思ったが、何かと狙われやすいこの状況。それはあまりに無防備だということで、無理やり登校してもらうことにしたのだ。さすがに最初は教師達も注意をして起こしていたが、あまりの状態にあきらめ、あの状況に至る。
 授業が終わると加奈は佑太の机に向かった。
「佑太」
「うん…。なんだよ。加奈」
「大丈夫?」
「どうにか。前よりいい」
「そう…」
心配そうにそう言う加奈の頭を、佑太は無理やり起き上がって撫でる。
「ったく、心配しすぎだ」
それでも加奈の顔はくもったまま。そして明星や佑太の友達も同じだった。その様子を見て佑太は何か言おうとしたけど、結局睡魔に襲われてまた眠りに落ちてしまう。加奈は大きくため息をついた。
 放課後。佑太は玄関で加奈を待っていた。伊里を具現化してから、加奈が佑太を家に送り届けていたのだ。家の方向が違うからと佑太は渋ったが体調も心配だし、変なのに狙われかねないからと言って、加奈が聞かなかったのである。ぼーっと待っていると、佑太は誰かの声が聞こえた気がした。最初は空耳かと思ったが何度か聞こえる。あまりに耳障りなのでその声の主を探しに行くことにした。校庭へ出て、少し歩くと大きめの木が見えてくる。そこにうっすらと何かがいるのが見えた。
「おまえか。さっきからうだうだ言ってるのは」
「ふふっ。ちゃんと来てくれたのね。うれしいわ」
声とともに木の前にきれいな女が現れた。佑太は少しびっくりする。
「おまえ、一体何だ?そして何の用だ?」
「名前を聞くなら名乗るのが先でしょ。まあ、いいわ。私はかづ子。この木に宿る霊よ。そして用向きは…あなたがほしいの」
「はっ?」
かづ子はにっこり笑うと、一瞬にして佑太に手を伸ばす。佑太は避けようとしたがかづ子のほうが早く、襟元をつかまれる。そして目が合った瞬間、動かなくなった。かづ子はうれしそうに笑うと手を広げ、佑太に言う。
「いらっしゃい。私の大事なお人形」
佑太はよろよろとかづ子へと歩くと寄り添う。その様子にかづ子は恍惚な笑みを浮かべた。
 後から玄関に来た加奈は佑太がいないことに驚いた。
「佑太?」
だが近くにもいないようで、心の中に焦りが生まれる。実のところこの学校も安全なわけではない。やはり特有のやつがいたりもするのである。いてもたってもいられなくなり、加奈は校庭へと飛び出した。そこで不思議な感覚に出会う。
「これってまさか…」
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