middle story

□『yu-kana』
 1.美少女転校生がやってきた
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 この日、学校はざわめいていた。転校生が来るとまことしやかにささやかれていたのである。今日の朝、見知らぬ女子生徒が職員室に入ってくるのを何人かが目撃していたのだ。みんな揃ってどんな人かなとか、どのクラスに来るのかとか噂しあう。やがて鐘が鳴り、みんなは自分の席へと着いた。結局、転校生が来たのは一年二組のクラスだった。先生と一緒に転校生の少女が教室に入ると、教室は一瞬静まり返った。そして礼をした後、すぐに先生が転校生の紹介をする。
「今日からこのクラスの一員になる、荒井加奈さんだ。仲良くしてやってくれ」
先生に紹介され、加奈はぺこりと頭を下げた。
「荒井加奈です。…よろしく」
それと同時に数人の男子生徒から歓声が沸きあがる。それも無理はなかった。加奈はロングヘアーでゆるいウエーブがかかっており、顔も細面でかなりの美人だった。休み時間には早速多くのクラスメートが加奈の元に集まる。だがわいわいと話している光景を一人の男子生徒が冷ややかに見つめた。そんな男子生徒に友達が声をかける。
「おい、佑太、いいのか?めちゃくちゃ美人だぜ」
「別に。魔女に魅入られた女に興味はねえよ」
視線が一斉に佑太と呼ばれた男子生徒に向く。←
「ちょっとそれどういうことよ」
一人の女子生徒が佑太に食いついた。佑太は動じることもなく答える。
「そいつのそばにはいつも魔女がいて、あまりそいつに近づきすぎると魔女が嫉妬して相手を殺そうとするのさ。実際にそのせいで歩けなくなった奴とかいるしな」
女子生徒は佑太につかみかかった。それでも佑太は驚いた様子を見せない。そんな佑太の反応に女子生徒は怒りを爆発させた。
「でたらめ言わないでよ。それに言っていいことと悪いことがあるでしょ。何でそんなことばっかり言うのよ、あんたは」
「俺は優しく忠告してやったまでだ。後はどうなっても知らないぜ」
佑太ににらみつけられて女子生徒はびくっとした。けんかは日常茶飯事だったが、いつもは見せないような鋭い目で見つめられ恐怖を感じたのである。佑太はそれだけ言うと教室から出て行った。残された者達みんな困惑してしまった。一方加奈は少し悲しそうな顔で佑太が出てったドアを見つめた。その時先程佑太と言い争っていた女子生徒が加奈のところに来た。
「ごめんね。あいつすっごく口悪くて。でも何か言われたら私がぶっ飛ばしてあげるから。そういえば自己紹介まだだったね。私、時枝明星。よろしくね」←
明星はにっこり笑った。加奈もつられてはにかむように軽く微笑む。
「ありがとう。でもあの人の言ったこと嘘じゃないから。…あまり近づかないほうがいいかもしれない」
加奈は寂しそうに笑い、視線を落とした。みんなはどう反応したらいいかわからず黙り込む。その時ちょうど鐘が鳴った。これ幸いと次々に自分の席に戻っていく。明星は戻る時に加奈に言った。
「いろいろあると思うけど、私は加奈の味方だよ」
加奈はただ軽く微笑んだ。それを見て明星は辛くなった。加奈がやんわりとはいえ、他人を拒絶していることに。
 その日の放課後、加奈は一人になりたくて人気のない廊下でぼっとしていた。その時足音が近づいてきたのに気づき、加奈はその方向を向いた。佑太が歩いてくるのが目に入る。佑太は加奈の前で一瞬立ち止まった。しかしすぐに歩き出す。すれ違い様、佑太は加奈に言った。
「前のとおりでいくぞ。いいな」
加奈は佑太の後ろ姿を眺めた。そして姿が見えなくなると、うつむきながら小さく頷いた。
「うん。それでお願い。佑太」
加奈はそうつぶやくと、かばんを持って家路に着いた。
 それからしばらく加奈の周りにはたくさんの人々が溢れた。告白されることもあった。←しかし数日後、状況が一変する。加奈に告白した男子生徒が交通事故に遭い、入院することになったのである。そばにいるクラスメートにも些細だがよくないことが続いた。みんな気味が悪くなり、次第に人が加奈から離れていく。だが明星だけは加奈のそばにい続けた。友達は加奈から離れるよう忠告したが、明星は受け入れなかった。
「霊能者の知り合いがいるの。もしもの時はその人達に頼むから」
明星はそう言うと加奈のところに戻っていく。友達は心配そうに明星を見つめた。
 加奈が転校してきて一週間が経過した。見た目にはどうにか事態は落ち着いてきているように見えた。この日は体育の授業があり、二人組になって体操をした。加奈の相手はもちろん明星だった。体操が終わると先生はみんなを呼び集める。加奈と明星は歩き出した。だが突然加奈は驚いた表情を浮かべ、立ち止まる。あまりに突然のことに明星は加奈にぶつかった。しかし加奈はそれさえも意に介していないようだった。
「どうしたの?加奈」
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