middle story

□『守り刀』
 2.黒い歴史の歪
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 その日、最初はいつものように五人で話していたが、どうしても良樹のことが気になった雅貴は、しばらくすると三人から少し離れた場所で康太と話し始めた。
 残された三人は特別何か話すわけでもなく黙っていた。
 良樹はただ雅貴と康太のことを見つめた。だが次の瞬間、心臓が脈打ち、良樹は胸を押さえた。
「良樹?」
 異変に亮介が気付いた。だが良樹は軽く微笑むと立ち上がった。
「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おい、ちょっと、良樹」
 だが良樹は歩き出した。そして四人から見えないところまで来るとしゃがみ込む。
「こんな唐突に来るなんて。とにかく離れてないと」
 良樹はぜえぜえと息をついた。
 だがその時大きな音が聞こえた為顔を上げる。気付くと大量のバイクが良樹の前に集まってきていた。
「見つけたぞ」
 良樹はその男に見覚えがあった。前にいたグループのリーダーである。
「良樹!」
 後ろから声がした為振り返ると亮介と俊男が走ってきていた。良樹は内心げんなりする。
「大丈夫か?良樹」
「ああ」
 良樹は前を見つめた。三十台ほどのバイクが終結している。その一つから先ほど声をかけてきた男が降りた。
「ヨオ。良樹。この前は世話になったな」
 良樹は不機嫌そうに男のことを見た。
「だから今日はダチいっぱい連れて礼に来てやったぜ。ありがたく思えよ」
 良樹はフッと笑った。
「本当にありがてえな。こうタイミングよく現れてくれるとはなあ」
 いつもと違う良樹の口調に亮介と俊男は恐怖を覚える。
「おい。良樹。こんなとこでやんなよ」
 亮介が良樹に手を伸ばしたが、良樹は無造作にその手を払う。二人は驚いて良樹を見つめた。だが良樹は懐から赤い鞘の小刀を取り出すと身構えた。
「前回の二の舞にしてやる。行くぞ!」
 良樹は突っ込んでいった。相手も応戦するが圧倒的に良樹のほうが強く、あちこちから悲鳴が上がる。
 その様子を見ていた亮介と俊男は恐怖で足がすくみ、動けなくなってしまった。
 ものの数分で勝負はついた。しかし良樹はまだ暴れたりないらしく亮介と俊男のことを見た。
「おい。やめろ。俺達同じグループの仲間だろ?」
 だが完全に正気の失せた良樹の耳には届いてなかった。一直線に二人に襲いかかる。
 その時二人の前に異変に気付いた雅貴が立ちはだかった。そして刀を抜き、襲ってくる良樹に備える。
 カキン
 雅貴の刀と良樹の刀が打ち合う。それと同時に雅貴の中に様々な映像が流れ込んできた。
「雅…貴」
 良樹の目に正気が戻る。亮介と俊男はホッとしたが、雅貴一人は呆然とした顔で良樹を見つめた。
 しかし良樹はすぐに意識を失い、雅貴のほうに倒れ込んでくる。
「良樹!」
 亮介が叫んだ。良樹の顔は青白く生気が抜けていた。
 雅貴は良樹の刀を見つめるとそれを手に取った。
「雅貴さん?」
 俊男の声は雅貴に届いてはいなかった。早く良樹を助けなければという想いだけが雅貴の中にあった。  その時傷の浅い者達が凶器を持って向かってくるのが雅貴の目に入った。
「亮介、俊男。ごめんなんだけど逃げる準備しておいてくれないかな」
「雅貴さん…やる気ですか?」
 雅貴はただ前を見据えたままだった。
「だけどそこまでやる必要は…」
「どうしても今は譲れないんだ」
 雅貴は身構えると飛び出した。二人は仕方なく良樹を連れて康太のところへと戻っていった。
 雅貴はできる限り刀を振り、細かい傷をつけていく。たくさんの血が流れるように。
 だがすぐに向かって来る者がいなくなってしまった。雅貴は良樹の刀を見る。
「まだ足りないな。でもこれ以上は無理か」
 雅貴は顔を上げるとみんなの元へと戻る。
「戻ったか。雅貴」
「はい。迷惑かけてすいません」
 康太は小さくため息をついた。
「本当に珍しいな。だが元は良樹が起こしたことだからな。とにかく早くここから立ち去らないとな」
「そうですね。亮介、俊男」
 二人は雅貴を見た。
「良樹は僕が連れていくから」
「あ、はい。でも…大丈夫ですか?」
 雅貴は軽く微笑む。
「大丈夫。すぐに元気になるよ」
 二人は安心したようだった。
 雅貴は始めて会った日のように良樹の体をベルトで固定すると、自らもまたバイクに乗った。
「では、また数日後」
 みんなはそれぞれ走り出した。
 雅貴は家に帰ると良樹のことをベッドに寝かせ、刀を懐に納めた。そしていすをベッドの横に持ってくると良樹のことを見つめる。
「右京…何でもっと早く教えてくれなかったの?そうすればもう少し違う方法を二人で考えられたのに」
 雅貴は少し顔を歪めた。
 刀と刀が触れ合った瞬間、雅貴の中に流れ込んできた映像。それはそれぞれの刀、そして良樹…右京の記憶だった。
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