天使の使い

□1.再会
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 あの時のことを僕は覚えている。まだ五歳の時のことなのに。死んだはずのお父さんが僕の危機に守りにきてくれた。どんなことがあってもお父さんは僕を傷つけず、守りきってくれた。そしてそのご褒美で僕はお父さんと一緒に過ごした。たった一日だけど。でもそのおかげで僕はお父さんの記憶がある。だけど…それ以上思い出が更新されることはないんだろうな。
ピピピピピピピピー
目覚まし時計が鳴り響いた。弘は寝ぼけまなこながらもむっくりと起き上がった。
「ふわあ。久しぶりだな。あの夢見たの」
弘はそう言いながら支度を整え、リビングに入る。リビングでは朔夜か朝ご飯の準備をしていた。
「おはよう。母さん」
「おはよう、弘。朝ご飯の準備もうすぐできるからちょっと待ってて」
「じゃあ先にお父さんにおはよう言ってくる」
「そうして」
弘は居間に入っていった。そしてそこにある仏壇に向かう。線香を立て、鐘を鳴らすと、弘は手を合わせ、遺影を見上げた。
「おはよう。お父さん。今日も元気に行ってくるね」
弘はにっこり笑った。
「弘、朝ご飯できたわよ」
「はあい」
弘はリビングへと戻った。そこには弟のライがいた。支度は整えているものの、まだまだ眠たそうだった。
「おはよう。ライ。まだ眠たそうだけど大丈夫か?」
「おはよう…兄ちゃん。うん…大丈夫」
しかし言葉とは裏腹にライはぼーっとしていた。弘は苦笑いする。だが時間的に余裕がなかった為朝ご飯を食べ始めた。そして二人よりも早く食べ終えると席を立つ。
「ごちそうさま」
弘は上着をはおり、かばんを持つともう一度リビングをのぞいた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ええ。気をつけていってらっしゃい」
「うん。いってきまーす」
朔夜の言葉に返事をすると弘は家を出た。
 現在、富江弘は十四歳の中学三年生。母、朔夜と八年前に生まれた弟、ライの三人で暮らしている。
 弘はいつもどおりの時間に学校に着いた。かばんの中身を机の中に移していると友達の神山春樹がやってきた。
「おはよう、弘」
「おはよう。春樹。相変わらず早いね。来るの」
「まあね。朝は強いほうだし」
「おっはよー、弘、春樹」
「雄馬!おはよう」
今度は弘の幼なじみの相模雄馬が教室に入ってきた。カバンを机に置くと、すぐに弘の机にやってくる。
「でも今日は暖かいよな。ブレザー着てて暑かった…」
「そうだね。五月ももう半分終わるし」
「そう?俺はそうでもなかったけど」
春樹の言葉に雄馬はげんなりする。
「おまえ、来るの早過ぎるんだよ」
弘は苦笑いを浮かべた。その時弘のもう一人の幼なじみである村川正史がやってきた。片手に下敷きを持ち、パタパタとあおいでいる。
「おはよう。なあ、今日暑くねえ?ここに来るまでに汗だくになっちまったよ」
「だよな。本当今日暑いよな」
雄馬が正史の言葉に頷いた。弘は必死に笑いをこらえる。その時予鈴が鳴った。
「もう予鈴か。喜市の奴、相変わらず遅いな」
「大丈夫だろ?あいつ足だけは早えもん」
四人は時計を見つめた。そして本鈴が鳴るほんの少し前、ぱたぱたという足音とともに喜市が教室に滑り込んできた。
「ふう。どうにかセーフ」
「遅えぞ、喜市」
「はは。あんま言わないでくれよ。正史」
喜市は苦笑いをした。しかしすぐに席に向かう。喜市の席は弘の右隣だった。喜市が席に着くと弘は声をかけた。
「おはよう。喜市。今日もギリギリだったね」
「どうしても朝起きれないんだよ。メチャクチャ夜更かししてる訳でもないのにさ。本当、これは春樹がうらやましいよ」
弘は苦笑いした。だがすぐに前を向く。先生が入ってきたのである。
「起立。気をつけ。礼。…着席」
委員長が号令をかけ、本格的に一日が始まった。先生が連絡事項を伝えるとすぐにホームルームが終わった。そして授業が始まるわけだが、これも変わり映えなく進んでいく。気づけばあっという間にお昼になっていた。弘は給食を食べ終えると他の四人と共に外に出た。小さなボールを持って。それを使って校庭で五人は遊んだ。だがしばらくした時、正史がコントロールを誤り、ボールが木に引っかかってしまった。
「あーあ。正史、何やってんだよ」
「悪い悪い。ちょっと力み過ぎた」
雄馬に言われ正史が笑った。一方、弘と喜市は木の下からボールを見つめた。
「取れそう?ボール」
「そんな高くないし…もうあんまり時間もないから登って取ってくるよ」
「え?でも、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
心配する喜市に弘は微笑んだ。早速木に登っていく弘。だが木に登って初めて、ボールが結構上に引っかかっていることに気付いた。
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