天使の使い

□5.お守り
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 その日、ラファエロは妙に落ち着いていなかった。ファイが不振がる位に。
「どうされたんですか?そんなにそわそわされて」
「いや…ちょっとな。別におまえが心配することではない」
それでもファイはラファエロのことをじっと見つめた。ラファエロは苦笑いを浮かべている。ファイはふうとため息をついた。
「もう、本当に何かあるのなら言って下さい。何かがあってからでは遅いのですから」
「わかっている。しかし本当に心配する程のことではないのだよ」
ラファエロはそう言うと、どことなく寂しげな笑みを浮かべた。その表情を見て、ファイはそれ以上強く言えなくなってしまった。
「わかりました。これ以上は聞きません。でも何か変なことがあったら、すぐに教えて下さい。お願いします」
「ああ。真っ先にそのペンダントに連絡を入れると約束しよう」
「絶対ですよ」
「もちろんだ。では、明日も頼むぞ、ファイ」
「はい」
ラファエロは天に上がっていった。ラファエロの姿が見えなくなった後も、ファイはしばらく空を見上げていた。
 次の日、ファイはいつもどおり、いつもの場所で待っていた。しかし、時間になっても、ラファエロが下りてくる気配がない。不思議に思ったファイは、ペンダントに伝言が来ていないか調べた。すると、伝言が一件来ていた。ファイは急いで再生した。
「時間になっても下りてこないものだから驚いたろう。今どうしてもての離せない状況に陥っている。すまないが、今日集めた魂はペンダントを使って転送しておいてくれ。そして明日のことだが、いかんせん時間がなくてな。選別している余裕がなかった。また、今の状況がどう転ぶかわからない。場合によってはおまえの力を借りる必要が出てくるやもしれぬ。よって、私がおまえに任務を与えるまで待機しておいてほしい。任務はペンダントに送るので、よく注意しておくように。以上」
ラファエロの伝言はそこで途切れた。伝言を聞き終えたファイは苦笑いをした。
「もう、ラファエロ様ったら。本当にとんでもない状況になっているだなんて」
ファイは仕方なく、今日集めた魂を転送した。そして地面に下ろすと空を見上げた。
 夜が明けても、ファイはまだそこに座っていた。時々ペンダントを見ながら、ただぼーっとしていた。しかし八時も過ぎると街が騒がしくなってきた。それを避けるように、ファイは静かな公園へと移動した。それから数時間が経ち、日が真上に昇った頃、ファイはため息をつきつつ、ペンダントを自分の目線の高さまで持ち上げた。すると、ペンダントが光を放った。ファイは急いでラファエロからの伝言を再生した。
「今日の…というより、今のおまえに任務を与える。何が何でも富江弘を守ることだ」
ラファエロの伝言にファイは驚いた。
「弘は今、悪魔に狙われている。三年前あの事件を起こした悪魔に。本来、私や他の天使が行くべきことなのだが、天界は今地界とにらみ合っており、うかつに下りれない状態だ。なので、誰か天使が下りるまで、弘を守ってほしい。今のおまえの力では無理があるから、力を制御する物を渡し、おまえの力の一部を解放する」
ラファエロの言葉が切れ、ペンダントが光った。そしてペンダントから光球が出てきた。ファイはその光球を両手で受け止めた。手に触れた瞬間、光球ははじけ、ファイの中に吸い込まれていった。光球を受け入れると、両手の人差し指に指輪が現れた。ファイが不思議そうに見つめていると、ラファエロの伝言が再開した。
「右の指輪が攻撃、左の指輪が回復を司る。両方を使うと防御ができる。移動や感知能力は今までどおりでどうにかなるだろう。さて、私がこの伝言を吹き込んでいる時点では、弘は無事だ。とにかくまずは弘のもとに行け。…これはおまえだけでなく、天界にとっても重大な問題だ。全ては今、おまえにかかっている。頼んだぞ、ファイ」
「はい。わかりました」
ファイはラファエロの伝言に答えた。そして深呼吸をして気をひきしめると、弘の家に向かった。しかし、家の周りはパトカーでいっぱいだった。嫌な予感を抱えながら、ファイは中の様子を探った。するとすぐに落ち着かない状態の朔夜と、緊張した面もちの刑事達が見えた。弘に何かあったことは、一目瞭然である。
(もう悪魔の手に落ちてしまったのか。これはマズいなあ…)
心の中でつぶやき、ため息をつきつつファイは目を閉じ、気配を探った。すると、前に感じたような嫌な感じがした。そう、殺された時に感じた、あの嫌な感覚。ファイは顔をしかめながら、もう少し周りの気配を探った。するとまた別の感覚が飛び込んできた。何より暖かく、そして強い気配。ファイはすぐにこの気配が誰のものだか気づいた。
(弘の気配。今のところ無事のようだな)
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