天使の使い

□4.狙われ
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 とある夜のこと、ファイはラファエロからいつもの紙と共に、不思議な色の石をもらった。ファイは不思議そうに観察するとラファエロに聞いた。
「何ですか?この石は」
「おまえの気配を消すものだ」
「え?」
ファイは少し驚いた。前回の一件があってから、まだあまり経っていなかった。
「また何かあったんですか?」
「ああ。それも今回は前よりもたちの悪い相手だ」
「と言いますと…?」
「霊能者だ」
ファイは驚きで声が出なくなった。
「その者達に対しては、例え姿を消したとしても、見抜かれてしまう。よって完全に気配を消すその石を渡したのだ。とはいえ、その石にも欠点があり、ケージと鎌を使っている時は、完全に気配を消せないのだ」
「そうなんですか…」
ファイはまたその石をまじまじと見た。
「そういうことで、できるだけ慎重に行動してほしい。まだおまえの存在を奪われるわけにはいかないのでな」
「わかりました」
ファイは頷いた。ラファエロはそれを見ると、フワリと浮かび上がった。
「明日も頼むぞ、ファイ」
「はい」
ラファエロはそのまま天に帰っていった。ファイは軽くハアとため息をつくと、明日に備えて休んだ。
 午前中の家事を終え、朔夜はゆったりとお茶をしていた。その時けたたましく電話のベルが鳴った。朔夜は小さくため息をつくと、電話に出た。
「はい、富江ですが」
「おはようございます。私、藤木といいます」
「はあ…」
聞いた覚えのない名前を聞いて、朔夜は曖昧に返事をした。
「突然のお電話、驚かれたことと思います。私は霊を見たり、祓ったりする力、霊能者というものですね。これを持っております。今回は、亡くなられた旦那さんが目撃されたとの情報を得まして、そのことに関する情報収集しております。失礼ですが、何かご存知ありませんか?」
朔夜は一瞬どう答えようか迷ったが、結局素直に答えた。
「先日、警察の方が話を聞きにいらっしゃいましたわ。主人が目撃されたけれど知らないかと。その後は全く連絡がないので、どうなったかはわかりませんけど」
「そうですか…。奥様は会われたこと、ないのですか?」
「いいえ。ありませんが」
「そうですか…いえ、本当に突然すいませんでした。ただ、目撃されましたら、連絡頂けますか?」
「あ、はい、わかりました」
朔夜はそう言うと、藤木が言った電話番号をメモした。
「それでは、すいませんがよろしくお願いします。失礼します」
電話が切れると、朔夜は大きくため息をついた。最近、何か変な相手に縁があるなと。朔夜は椅子に戻ると、残っていたお茶を一気に飲み干した。
 同じ頃、ファイは順調に仕事を進めていた。前回と同様に身を隠すようにしたのである。午前の分はほとんど終了していた。また時間が近づいてきていたので、ファイは急いで移動した。その途中、何とも変な感じがして立ち止まった。なぜか別の方向に引き寄せられてしまう。
(何だ?この感じ)
どうしても体がうまく動かせない。ファイは時計を見た。定時寸前である。
「まずい」
ファイはがんばって現場の方向に歩いた。少し歩くと、なぜか変な感じが取れ、体が動くようになった。ファイは驚いたが、理由は考えず、とにかく急いだ。
 その夜、ファイは今日あったことをラファエロに伝えた。
「というわけで、いきなり体の自由がきかなくなり、ある方向へ引き寄せられたんです」
「そうか。…それは単純に相手がはった罠だな」
「罠…ですか?」
ラファエロは軽く頷いた。
「ああ。おまえを自分のところに引き寄せるためのな」
もしあの時がんばらなかったらと思い、ファイは身震いした。しかしファイは少し考え込んだ。その様子を見ていたラファエロがファイに言った。
「そうだ。ファイ。前回のようなことはするな」
ファイはラファエロが言いたいことがわからず、首をかしげた。
「え?前回のようなこととは?」
「わざと相手に捕まることだ」
ファイは言葉に詰まった。
「そんなことをしたら、今回は最悪その存在を消されてしまうだろう。絶対しないと約束してくれ」
ラファエロは真剣な眼差しでファイを見つめた。
「はい…」
ファイはそれしか言えなかった。ラファエロの態度に圧倒されたのだ。ラファエロはそれでもなお心配そうだった。
「…大丈夫ですよ。さすがに消されるのは困りますから」
「…そうだな。こればかりはな。そうだ。明日の分、渡してなかったな。これが明日の分だ。…本当に頼むぞ、ファイ」
「はい」
ファイは柔らかく微笑んだ。ラファエロも、やっと少し笑みを浮かべた。ラファエロが天に帰ると、ファイは目を閉じ、手を胸に当てた。鼓動の音は、もちろんしない。全ての時が止まったままである。
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