天使の使い

□3.追っかけ
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 その日、ファイはかなり早い時間に約束の場所に着いていた。それもそのはずである。捕まえてくる魂の数が少なかったのだ。それもここ最近ずっと。不思議に思ったファイはラファエロに聞いてみた。
「最近少ないですけど、大丈夫なんですか?」
ファイの質問にラファエロは一瞬動きを止めた。その反応にファイのほうが驚いた。
「何かあったんですか?」
「実はな、警察が動いているようなんだ」
「え?それって…」
「おまえが殺しているのではないかと思っているらしい。…だから少し人数を落としているのだ。おまえもここまでがんばってくれたのだから。というわけで、そちらのほうも気をつけてくれ」
「…はい。わかりました」
ファイはしっかり答えた。ラファエロが空に帰り、1人になったファイは、何か大変なことになったなぁと思いつつ、そこまで深くは考えていなかった。
 その次の日、ファイはいつものように魂を集めた。しかし1つ捕まえたところで、ファイは変な視線を感じた。そちらをうかがうと、1人の男がファイを見つめている。ファイは嫌な感じがしたので、姿を消し、その場から逃げた。
 同じ頃、朔夜は弘を幼稚園に送り出し、部屋の掃除をしていた。
ピンポーン
呼び鈴が鳴ったので朔夜は玄関に出た。そこには背広姿の2人の男が立っていた。
「私、川江署の岩谷と言います。ご主人のことで少し話を聞かせて頂きたいのですが」
「主人…顕彰のことですか?」
「はい。…少々お時間頂けますか?」
「構いませんよ。ここじゃ難ですから、中へどうぞ」
「失礼します」
朔夜に促され、岩谷達は家に上がった。居間に通され、しばらく待っていると朔夜がお茶を入れてきた。
「すいませんね。掃除中なもので、少々散らかっておりますが」
「いえ、お構いなく」
お茶を出すと朔夜も座った。
「で、何をお話しすればよろしいのでしょうか?」
「ご主人の顕彰さんのことです。いきなりのことで驚かれたことと思います。実は最近目撃情報が寄せられまして、しかもそれが必ず亡くなった人の近くなのです。そのため、一応捜査することになりました。それで少し話を聞かせてほしいのです。…ご主人は3年前の事件で亡くなったそうですね」
「ええ。息子のことをかばって。今でもよく覚えています。それに、この前三回忌の法要を済ませたばかりですから」
岩谷は真剣な顔で朔夜に聞いた。
「とてつもなく変なことをお聞きしますが…事件以来…亡くなってから、一度でも姿を見かけられたことはありませんか?」
「いえ、一度も」
「そうですか…いや、すいません。本当に変なことを聞いてしまって」
「いえ、こちらこそ力になれなくてごめんなさいね」
朔夜を心底すまなそうな顔した。
「お気になさらないで下さい。ただ…」
「ただ?」
「見かけられましたら、署に連絡頂けますか?」
「わかりました」
朔夜は微笑んだ。岩谷達はその後間もなく朔夜の家を後にした。岩谷達を見送ると朔夜はため息をついた。
「死んだ人間が生き返るわけないじゃない…」
朔夜は泣き出しそうに顔を歪めた。しかしどうにかその気持ちを抑えつけ、掃除の続きを始めた。 その日の夜、ファイはげんなりした顔をしていた。あの後も二度、変な視線を感じたからだ。さすがにファイはラファエロに泣きついた。
「どうしましょう。やっぱり目をつけられているみたいです」
「一応人数を少なくしているから逃すことはないと思うが、事情聴取とかされるとな…仕方ない時は自分が人間でないことを示しなさい」
「ということは…」
「目の前で消えたり、相手を通り抜けてみせるということだ。…本当はできる限りそんなことさせたくないのだが仕方ない」
「本当にすいません」
「おまえがいけないわけではない。私達が少し甘かったのだ。場合によっては目をつけられることをきちんと認識するべきだった。かなり長い期間、この仕事をしてもらうつもりだったのだから」
ラファエロはそう言うと唇を噛んだ。ファイは驚いた。ラファエロのそんな顔を見たのは初めてだった。表情さえ、いつもならこんなに変化しない。
「私の方も気をつけます。…ラファエロ様」
「なんだ?」
ラファエロは不思議そうにファイを見た。
「あまり思いつめないで下さい。私もそれなりのことは覚悟していたわけですし」
ファイは微笑んだ。それを見て、ラファエロは少々驚いた顔はした。しかしすぐにいつもの顔に戻った。
「すまないな、ファイ。余計な心配させて」
「いえ」
ラファエロはファイの様子を見て落ち着いたようだった。
「では明日も頼むぞ、ファイ」
「はい」
ファイの返事に安心して、ラファエロは天に上がっていった。ファイは一人、気を引き締めた。
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