今夜あの喫茶店で

□4.夜中のお茶会〜viewpoint of MAYU
2ページ/5ページ

「別に仁が首を突っ込むことじゃないだろ!これ以上何か言うなら…覚悟しとけよ」
 半眼で世良さんをにらみつける隼人。それを見ながら野々原さんは苦笑いを浮かべた。このままだとけんかになると思った私は思いきって口を開いた。
「あ、あの!特別っていうのは好きとかそういう話じゃなくて…私に働きかけて感情や表情を取り戻させようとしてくれるからで…」
 必死に言い募るとこらえきれないといった感じで世良さんが笑い出した。
「かわいい〜大事にしないとだめだぞ、隼人」
 そう言ってポンと肩を叩かれ、隼人は大きなため息をついた。
「大事にはするつもりだよ。傷つけちまったからな」
 その言葉にズキンと胸が痛む。私が隼人と付き合っていると勘違いした女の子達が男の人をけしかけたのだ。おかげでそのあたりの記憶は曖昧だけど…隼人がとても辛そうな表情をしていたことだけは覚えていた。
「隼人、そんなに自分を責めないで。結果的に私の状況は少し改善されたのだから」
 そう。あの一件から私の心の中には様々な感情があふれ始めていた。自分で戸惑う程に。
「だがな…」
 表情を曇らせる隼人に私は今の自分ができる限りの笑顔を見せた。
「今までぼんやりとしかわからなかった感情を感じられること。それが本当にうれしいよ」
 すると隼人の顔が少し赤くなった。驚いて目を瞬く。同時にまた世良さんの笑い声が響いた。
「照れてやんの。おまえらも十分お似合いだと思うがな」
 隼人はまた世良さんをにらみつけるが世良さんはどこ吹く風。確かにそんな赤い顔でにらみつけられても説得力がないよね。私の口元にも笑みが浮かぶ。
「真由、笑うなよ。それにおまえも言われてるんだぞ?」
「ん…でも私はまだそこまではわからないから。遠い先にはあるかもしれないんだろうけど。それにしてもまだ距離あるなって思うし」
 率直な気持ちを言うと隼人は頭を優しくポンポンと叩いてくれた。とそこへトレーを持ったマスターがやってくる。
「遅くなって悪かったね。はい、いつもの」
「ありがとうございます」
「じゃあ、ごゆっくり」
 トレーを置くとマスターはすぐに階段を下りて行った。
「ふーん…これがいつも頼んでいるメニュー?」
「はい。お茶は季節で変わったりもしますが、今はウバのミルクティーです。あとお茶うけはクッキーです」
 トレーをのぞき込む世良さんにそう返すと、世良さんの視線は隼人のほうに向く。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ