今夜あの喫茶店で

□3.突然の事〜viewpoint of HAYATO
4ページ/5ページ

「何してやがる!!」
 俺はそう叫んでいた。自分が芸能人とかそういうことも忘れて。
 同時に真由を除く全ての視線が向く。そして俺を認めると女達が騒ぎ出し、散っていった。男も舌打ちをして真由から離れていく。ぶん殴りたい気持ちを必死に抑え、真由に駆け寄り、抱き起した。
「真由、真由!!」
 でも真由は全く反応を示さない。持っていた上着をかけると喫茶店へと戻った。
 真由の様子を見てマスターはびっくりし、どこかへ連絡を入れる。すると数分後、車が一台到着した。
「真由様の様子は…?!」
 車から出てきた女の人がマスターにかみつく。車が到着するまでに俺がマスターにした説明を、マスターは女の人にした。それを聞いた女の人は大きなため息をつくと俺に視線を向ける。怒りを宿した目で。
「しばらく付き合って頂きます。明日のお仕事は大丈夫ですね?」
 丁寧だが有無を言わさない圧力に押されつつどうにか口を開く。
「昼までにスタジオに入れば大丈夫だ」
「それならばしっかり最後までよろしくお願いします」
 そう言うと女の人は俺と真由を車に乗せ、大きな病院へと連れて行った。

 病院にはすでに美由がいて、真由を見るとすぐに駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
 悲鳴のような叫び声がこだまする。だが真由はすぐにストレッチャーに乗せられ、処置室へと連れて行かれた。残された俺達は女の人に促されて近くのベンチに座る。
「美由…」
 俺が声をかけるとピクリと肩を震わせた。だがそれ以上言葉が出なくて黙っていると、美由は意志を込めた視線を俺に向けた。
「もう…お姉ちゃんの前に現れないで。お姉ちゃんをこれ以上…傷つけないで」
 最後のほうの言葉は涙で震えていた。何も言えずただ頷く。やがて処置が終わると美由は真由についていった。
 だが俺はそれを追いかけることもできず、ベンチに座ったままだった。しばらくそうしているとさっきまで姿が見えなかった女の人が俺の前に立っていた。
「真由様の状況を聞いてまいりました。顔をはたかれた以外は軽い打撲があるくらいでした。ただ精神的にかなりまいっているようです」
 その言葉にうつむく。顔を上げることができない。
「警察には届けさせて頂きます。立派な犯罪ですからね。それと美由様のいうとおり、これからは真由様と交流なさることはお止め頂きたい」
 また小さく頷いた。もうそれしかできなかった。そして最後にちらりとベッドに横たわる真由の姿を見ると、俺は病院を後にした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ