今夜あの喫茶店で

□3.突然の事〜viewpoint of HAYATO
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「まあ、ある意味俺のわがままだ。あんたみたいな目を見たくないって。…嫌か。俺が会いにくるの」
 フルフルと横に首を振る。
「でも…悪いですよ。仕事、大変なはずですし」
 一応は俺が誰か気付いてたんだな。
「言っただろ?俺のわがままだって。あんたが気にすることねえよ。…というより、自己紹介まだだったな。俺は徳永隼人。あんたは?」
「安城真由です」
「じゃあ、真由。明日もこの位の時間にここで会おう」
 真由はまたしばらく視線を落とす。
「はい」
 少々戸惑いながら真由は答えた。
 変わらないように見えて実は微妙に変わっている真由の様子。少なからず今までの成果は真由に出ている。望みはゼロじゃない。俺は少し嬉しくなった。
 結局この日は、真由がお茶を飲み終わったところで別れた。

 それからというもの、俺はできる限り真由に会いに行った。
 喫茶店はちょうどスタジオの目の前だったから真由が喫茶店に来る時間までスタジオで過ごし、そのまま喫茶店に直行、なんてこともできた。
 また次のライブまで時間があってスケジュールが詰まってないことも幸いした。
 最初は気を遣い、戸惑った感じの真由だったが、少しずつ話をすることを楽しんでくれている感じがした。そして帰る時間がそれなりに遅いから家まで送るようになった。真由の妹、美由とも知り合った。
 その中で真由の表情が少しずつでも変化することが嬉しくて。だから気づいてなかった。真由が狙われていることに。

 この日も俺は時間までスタジオで過ごし、喫茶店へ向かった。あれからほぼ毎日来ていることもあり、マスターもあいさつしてくれる。この頃には決まってきていたお気に入りのメニューを頼むと、二階のソファーでまったりとしていた。
 しかし予定の時間を過ぎても真由は現れない。先に俺が喫茶店に来ることがあっても、真由が来ないことはなかった。嫌な予感がした。携帯に電話を入れても出ない為、俺は探しに飛び出した。
 真由の家へと向かいながら、連れ込まれそうな場所も確認していく。すると喫茶店からそれ程離れていない横道から男の怒号が聞こえた。加えて女の小馬鹿にしたクスクスという笑い声。思わずそこへ飛び込んだ。
 目の前にした光景に息を飲む。無惨にも服を破られ男にまたがられた真由の姿。抵抗する様子もなく、無表情。俺の中でブチンと何かがキレた。
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