今夜あの喫茶店で
□3.突然の事〜viewpoint of HAYATO
5ページ/5ページ
それから真由のことは一切わからなくなった。その後のことを美由やあの女の人から聞くこともできなかった。そして特にそんな記事が週刊誌に載ったという話もない。
俺は自分の存在が引き起こしてしまったことに悔やんでも悔やみきれなかった。まして取り戻したいと思っていた感情や表情を奪う結果になってしまっていたから。
そんなわけで仕事にも身が入らず、マネージャーだけじゃなく珍しく仁からも苦言をもらってしまった。
だが一本の電話から状況が一変した。それは美由からの電話。真由が入院していた病院からいなくなってしまったと。
かなり美由も焦っていたけど俺自身も焦った。その時練習が終わりの時間近くだった為正直に仁に事情を話すことにした。すると驚いた顔をしつつ背中をバンと叩かれる。
「早く見つけてあげてこい」
加えて今度会わせろよと言うと笑顔で手を振る。俺は急いで片づけをするとスタジオを飛び出した。
真由の家の周辺を重点に捜していくと突然マスターから連絡が入った。どうやら見つかったらしい。ただその場所が…あの喫茶店だった。
喫茶店では困惑したマスターが俺を出迎えた。話によるとふらふら入ってきて、他の客がいるにもかかわらず夜の定位置である二階のソファーに寝転がってしまったようだった。俺は気持ちを決めるとゆっくりと二階へと上がっていく。
二階には真由以外に二人の客がいた。窓辺に座り、真由のことを見て見ない振り。そんな真由の眠るソファーに俺は近づいた。
「真由」
体を揺らすとゆっくり目を開け、俺を見上げる。出会った時のように何も映っていない瞳に胸が痛む。だがすぐに真由の口が動いた。
「隼人…さん…?」
「ああ。遅くなって悪かったな」
真由は体を起こし、首を振る。
「いえ、来て下さってうれしいです」
その言葉に俺のほうがうれしくなり、その体を抱きしめる。びっくりして息を飲むのがわかったけど、戸惑いつつもその身を預けてくれた。
その後、喫茶店に美由と女の人が来て事態は収拾した。そして真由の願いにより、必ず車で送迎することを条件に、夜この喫茶店でお茶を楽しむことが許された。
それが決まった時…真由は笑った。今まではわかる人にしかわからなかったのが、確かに笑ったと言えた。これには俺だけでなく美由と女の人もびっくりだった。
そんなわけで今日もまた俺は喫茶店へと向かう。仁に冷やかされながら。