long story 2

□『精霊のティアラ』
 8.村の精霊
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「彼は…怖いの。でも、私達を見ているとどうしてもその恐怖を突きつけられることになるから…だから、薫は私達を嫌うの。受け入れられないの」
涙はそう言うとまたため息をついた。二人は何も言えなかった。
「とにかく行きましょう。少し急がないと夕食が遅くなってしまいますから」
涙はそう言って歩き出した。二人は涙の言葉に納得がいかないものの、渋々と歩き出した。
 それから一時間後、三人は家に戻った。あの後、風と雷の時よろしく洋服屋と雑貨屋をまわってから、夕食の食材を買い込んだ。帰ると涙は夕食の準備を始め、実木と実土は部屋に戻り荷物をしまう。実木は片づけがすむとため息をついた。
「実木?」
実土が不思議そうに聞く。
「ん?ああ、涙さんが何であいつのことかばってるのかなって思って」
「ん…多分涙さんは私達よりあの人のことをよく知っているからじゃないかな」
「え?」
実土の答えに実木は驚いた。
「涙さん、言ってたでしょ。怖いんだって。あの人の気持ちをわかっているから心配なんだと思う」
実土はそう言うと視線を窓の外に向けた。
「あれ?」
「どうしたの?実土」
「あの人がいる」
「へ?」
二人は驚いて窓にへばりついた。確かに薫がいた。
「どうしたんだろう」
「さあ…」
二人は訳がわからずただ薫を見守った。一方の薫は涙の家の横に立ち、森の入り口を見つめていた。
「薫」
呼ばれて薫は振り返った。そこにいたのは涙である。
「さっきもそうだけど、本当に珍しいね。ここに来るなんて」
薫は何も言わなかった。しかし薫はすぐに森のほうを見た。その目に少女の姿の精霊の姿が映る。薫は恐れ、後ずさった。薫のその反応を見て少女の姿の精霊は悲しそうな顔をした。
「何で逃げるの?」
少女の姿の精霊はそう呟くとその手を伸ばす。だがその時涙が薫の前に立ちはだかり、その手をはじいた。少女の姿の精霊は驚いた表情を浮かべる。
「あなたがいるべき場所に…戻りなさい」
少女の姿の精霊はしばらく涙を見つめると森の中へと消えていった。精霊が森へ帰ったことを確認すると、涙は薫のほうに振り返った。
「大変なことになってるじゃない。何で黙ってたの?」
「うるさい…」
薫はそう言ったものの、その場に座り込んだ。
「薫!」
涙は薫に駆け寄った。しかし薫に触れて涙は唖然とする。
「ずい分と魂を奪われているじゃない。普通の人なら目を覚ますことさえできないわよ」
馨はただ荒く息をついた。その時涙は視線を感じて顔を上げる。涙の目の前には雷がいた。呆気にとられた顔で突っ立っている。
「雷!ちょうどいいところに。悪いんだけど馨を家に送ってあげて」
「別にいい…」
「ダメ!!」
涙は大声で叫んだ。馨も雷も、そしてその様子を見下ろしていた実木と実土も驚いた。
「お願いだから今は言うこと聞いて。一つ間違えば命を落としかねない状況なんだから」
涙は顔を歪めた。その顔を見ると雷は小さく息をつき、馨に近寄った。
「こいつの家はお茶屋だったかな?」
「うん。そう。頼んでおいて悪いんだけど、あんまり力を見せないようにしてね」
涙の言葉に雷はため息をついた。
「わかってる。適当なところにおりるよ。…さて、行くか」
雷は力を発動させ、馨を連れて馨の家へと飛んだ。涙はそれを見送ると大きなため息をついた。
「あとできちんと対処しないと。大変なことになっちゃう」
涙はうつむき、その場に立ち尽くした。一部始終を見ていた実木と実土はそんな涙を見て複雑な気持ちになっていた。
「何か私達が思っているより大変な状況みたいね」
「そうだね。…やっぱりお父さんに言ったほうがいいかな」
実木の言葉に実土は考える。
「でも多分、私達が口出せることじゃないと思う」
「そうか…そうだよね…」
実木は寂しそうに言った。
「とにかく…涙さんが手を貸してほしいって言った時は手を貸してあげよう」
実土の言葉に実木は小さく頷いた。一方、雷は馨の家の裏手に着地していた。幸いその瞬間を誰かに見られてはいなかった。雷はチラッと馨のことを見る。思ったより辛そうだった。
「おい。動けるか?」
馨は立ち上がろうとしたが無理だった。雷が仕方なく肩を貸す。そして店へと入った。店では馨の母親が店番をしていた。あまりに辛そうな馨の姿に馨の母親は驚いた。
「馨!?どうしたの?」
「よくわからないけどうずくまっていたから連れてきました」
「そうだったの。ありがとう。あとは私が代わるわ」
馨の母親は微笑んだ。
「大丈夫ですか?あれだったら俺、上まで連れてきますけど」
「ありがとう。でも大丈夫よ。馨。こっちいらっしゃい」
馨の母親はそう言って雷から馨を受け取る。馨の母親は思ったより力持ちで、見た限り大丈夫そうだった。
「馨を送ってくれて本当にありがとうね。また寄ってちょうだい」
「はい」
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