long story 2

□『精霊のティアラ』
 8.村の精霊
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しかしできるだけそうならないようにがんばる。
「では、私は店に戻るからね。わからないことは涙に聞いてもらえるかな?」
「うん。わかった。お店、がんばってね」
二人はジェイに手を振った。ジェイは二人に見送られながら店に戻っていった。ジェイを見送ると、二人は涙のいる台所へと向かう。リビングではジェイと入れ替わりに明が昼食をとっていた。その横を通り過ぎて、二人は台所をのぞき込んだ。涙はジェイ達の食器を洗っていた。しかしすぐに二人に気づく。
「実木さん、実土さん、どうされました?お茶でも入れましょうか?」
「あ、いえ、大丈夫です。さっきお父さんが後で涙さんと買い物に行ってこいって言っていたから…」
「そうでしたか。買い物に出るまでにまだ時間がありますから、今のうちに荷物の整理をしておいてもらえますか?そのほうが必要なものがわかると思いますし。行く時になったら私が呼びにいきますから」
「わかりました。じゃあ、待ってます」
実木がそう答えると、二人は自分の部屋へと戻っていった。
 二時半頃、涙は二人を呼びにいった。
「実木さん、実土さん、遅くなりました。買い物に行きましょう」
涙に呼ばれ、二人はすぐに出てきた。実のところ少々待ちくたびれていたところである。
「ごめんなさいね。あれもこれもやっていたら遅くなってしまって」
「全然。大丈夫ですよ」
実木がにっこり笑う。その様子に涙も微笑んだ。
「では、早速出かけましょう」
こうして三人は家を出た。
「そういえば、お二人が必要なものはなんですか?」
「やっぱり洋服が少しほしいです」
実木が答えた。
「実土さんは?」
「私も実木と一緒で洋服がほしいです。あと、できたら歯ブラシを。使っていたものが傷んでしまって」
「わかりました」
「あ、あの…」
珍しく実土のほうから声をかけてくる。
「どうしました?実土さん」
「涙さん。私達より年上ですよね?別に呼び捨てで構いませんよ?」
「私も呼び捨てでいいですよ」
実木も実土に同意する。
「そうですか?では呼び捨てにしますね。実木、実土。私も呼び捨てで構いませんよ」
「え?」
二人は驚いた。
「でもやっぱり…涙さんですよ」
「そうですか?でも、まあ、お二人の好きなように呼んで下さい。…あ、あの店にちょっと寄っていって下さい」
涙はその店のほうに歩いた。二人も涙についていく。そこはお茶屋であった。中に入ると若い男が店番をしていた。男は涙を見るといつものごとく嫌な顔をする。
「おまえか。いつものやつでいいか?」
「そうなんだけど…量はいつもの五割増でお願いできる?」
涙がおずおずと聞いた。男はヘッ?と顔をする。
「ちょっと待て。今ストック見るから…一応あるぞ」
「よかった。じゃあ、それでお願い」
涙は笑顔を浮かべた。
「はいよ…というか、また誰か増えんのか?」
「うん。後ろの二人」
男はお茶の袋を作りながら、二人のことをちらっと見た。
「でも、最近おまえのとこよく増えるよな」
「そうだね。でも二人は母を亡くして、父であるジェイのところに来たからね」
またもや男はヘッ?という顔をし、作業の手を止めた。
「どうしたの?」
「いや、あいつの見た目は二十歳前だから、こんなデカい子供がいるなんて思わなくてな」
「私もちょっと驚いた」
涙がつぶやくように言った。その言葉に男が反応する。
「はあ?おまえ一緒にいるくせに知らなかったの?」
「だってずい分長い間、記憶ないから」
男は蔑んだような冷たい瞳を涙に向ける。
「そうかよ。えっと…あとはこれを入れて…ほらよ。できたぞ」
「ありがとう」
涙はそう言うとお金を払った。しかし、その後しばらく涙は男の顔をじっと見つめた。
「何だよ。何かついてるか?」
男は不機嫌そうに言った。だが涙は気にすることなく男に言った。
「何かあった?薫」
涙の言葉に薫と呼ばれた男は驚いた。
「別に。何もねえよ」
男はそうぶっきらぼうに言った。涙はその様子をただ見つめた。
「薫。これだけは言っておくね。何かあったのなら、手遅れになる前に言ってね」
涙はそれだけ言うと、荷物を持って店を出る。実木と実土も涙について店を出た。一人になった薫ははあとため息をついた。
「ったく、本当に嫌になる程鋭いんだから」
薫は視線を落とした。一方、涙も外に出て間もなく、ため息をついた。
「涙さん。大丈夫ですか?」
実土が恐る恐る聞いた。涙は痛いような笑みを浮かべる。
「うん。ただ…ちょっと心配だな」
「でも、接客態度悪すぎですよ。あいつ」
実木が忌々しそうに言う。
「さすがに私もそう思います」
実土が顔をくもらせた。それを聞いて涙も顔をくもらせる。
「あんまり言わないであげて。悪い人ではないから」
涙の言葉に二人は驚いた。
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