long story 2

□『精霊のティアラ』
 7.ジェイの宝物
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「…二人ともなぜここに?実と暮らしていたはずだと思っていたのだが」
ジェイの言葉に二人の顔色が変わる。
「一カ月位前に母さんは死んだ。病気でね。お父さんのこと、責めることもなく」
それを聞いてジェイの表情が暗く沈む。
「そうか。まだ若いのにな。さて、それを伝えに来た訳ではあるまい?なぜ私のところに来た?」
ジェイは冷めた目で二人を見た。
「…なぜ私達のことを探してくれなかったの?あの後お母さん本当に大変だったんだから」
実木の声は震えていた。ジェイは軽く目を伏せる。
「私は実を含めおまえ達のことまで守ってやることができなかった。それに気づいた実がおまえ達をつれて私の前から姿を消した。守ってやれないのに探しに行けるか?」
二人はしばし黙る。
「でもお母さんがどんな気持ちでいたかはわかるでしょう?」
ジェイは寂しげに笑った。
「ならなおさら無理じゃないか。迎えに行ったら怒られてしまう」
二人は何も言えず黙り込んだ。その様子を見て、ジェイはふうとため息をついた。
「実木。実土」
二人はジェイのことを見つめた。
「おまえ達は覚えているか?なぜそういう生活を余儀なくされたか」
「それはお父さんがいなかったから…」
「そうじゃなくて。…では、しばらく共に行動していた時、旅をしていたことを覚えているか?」
二人ははっとした表情を浮かべる。
「住む場所をなくし、旅をせざるを得ない状況になった原因をおまえ達は覚えているか?」
二人は黙って少し考えた後、首を振った。
「実からも聞いてないのか?」
「…うん。ない」
実土が力なく答える。
「ならば今までいた土地に帰りなさい。知らないならば知らないほうがいい。事実はおまえ達にとってとても残酷なものだ」
ジェイの言葉に二人の顔色が変わる。
「…そうやって本当のこと教えてくれないんだ。まあ、仕方ないか。私達のこと、邪魔なんだから」
実木の言葉に今度はジェイの顔色が変わる。
「そんなことはけしてない。だが知らないならそのほうがおまえ達にとっていいことだと本当に思うから…」
「もういい!帰れって言うなら帰るわよ。もう二度と来ないから安心して」
実木はそう吐き捨てるように言うと店を飛び出す。
「あっ、実木」
実土はそう言いつつジェイのことを寂しそうな目で見ると、実木のことを追いかけた。静かになった店内に涙とジェイだけが残された。
「追いかけなくていいの?ジェイ」
涙は心配そうな顔でジェイを見つめた。
「ああ」
「本当に?」
ジェイの顔が少し歪む。
「あの二人、十歳超えてるよね?だったら十分本当のことを伝えていいんじゃないかな」
ジェイはうつむいた。涙はジェイの背中に手を置くと、力強く言った。
「追いかけてあげて。二人のこと」
だがジェイが動く様子はない。涙はジェイの背中を押した。
「ジェイ。ダメだよ。今ちゃんとしないと」
ジェイは涙のことを見た。静かに頷く涙。ジェイは二人が出ていったドアを見ると、ひらりとカウンターを飛び越え、店を出ていった。その後ろ姿をため息混じりに涙は見送った。
 その頃、実木と実土は宿に向かってとぼとぼと歩いていた。二人ともかなり打ちひしがれていた。せっかく父親が見つかったというのに、父親は自分達のことを受け入れてくれはしなかった。二人にとってはかなりの痛手だった。そんな状況だったからだろうか。実木はもろに人とぶつかってしまった。
「何ぶつかってんだよ」
「ごめんなさい」
相手に言われて実木は謝った。しかし残念なことに実木がぶつかった男は、この村でかなり有名なゴロツキだった。男は逆上して手を振り上げる。
「謝ってすむなら何も言わねえよ」
男は勢いよく手を振り下ろした。実木は反射的に目を閉じ、小さくなる。しかしその手は実木に当たることはなかった。男の腕をジェイがしっかりと握っていたのである。
「貴様!離せ〜」
男はわめいて振り解こうとするが、ピクリとも動かない。
「これ以上二人に手を出すのはやめてもらいましょうか。それが聞けないというのなら容赦しませんよ?」
ジェイはいつもはけして見せないような冷ややかな目で男をにらみつけた。男はビクッとしたが、男もこの村で有名なゴロツキの意地なのか、ジェイに向かってもう片方の拳を向ける。
「離せ〜」
ジェイはとっさにその腕をつかむと、もう片方の手と合わせてくるんとまわす。すると男は一回転して地面に落ちた。
「ってえ。もう、何しやがる」
「正当防衛ですよ」
それだけ言うとジェイは実木と実土のほうを見た。二人は期待と不安の入り混じった表情でジェイを見ていた。
「大丈夫のようだね。二人とも」
「…なんでここに来たの?」
実木の言葉にジェイは少し黙った。
「涙に怒られてしまってね。十歳を越えているなら知る権利は十分あるとね」
実木は顔を歪ませる。
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