long story 2

□『精霊のティアラ』
 7.ジェイの宝物
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「そうですね…素材にもよりますが一日から三日位でしょうか。あと、一般的な定価より少し高めですけど大丈夫ですか」
二人は黙ってしまった。涙は少しかわいそうになってしまった。
「あの、そんなに気を遣われなくてもいいですよ。今日、また来てくれただけで十分です」
「でも…」
片方が申し訳なさそうに顔を歪める。涙は微笑みかけた。
「いいんです。困った時はお互い様ですから」
「すいません」
もう片方の女の子が言った。
「いえいえ。それより…私は涙と言います。お二人のお名前は?」
「あ、私が実木で、隣が双子の妹の実土です」
少し驚いたように実木が返す。
「やっぱり双子でしたか。似てるからそうかなと思っていましたが。でもどうして旅をされているんですか?」
二人の顔がまた曇る。
「私達、探している人がいるんです」
実木の言葉に涙の胸がドキンと言った。まさか本当に守なのかと涙は思った。しかしその気持ちは隠しながら涙は二人に言葉を返した。
「そうなんですか。差し支えなければ、誰を探しているか教えて頂けますか?」
実木と実土は顔を見合わせた。
「私達、お父さんを探しているんです」
涙の目が丸くなる。
「お父さん…?」
「はい。物心つく頃、私達のそばにいたのはお母さんだけだったんです。生活は楽しかったけど、やっぱり私達にはお父さんがいないことが寂しくて。でも一度会ったんです。もうずいぶん前ですけど。数日間一緒に過ごしました。だけど…」
実木はうつむいた。
「母さんはなぜか私達を連れて、お父さんから離れたんです。それからまた三人で生活していました」
「でも、それならなぜ二人でお父さんを探しているのですか?」
涙は不思議そうに二人に聞いた。今度は実土が答える。
「実は一カ月位前、お母さんを亡くしたんです。その間際にお母さんが言ったんです。「やっぱり探しにはこなかったわね。でも…それでいい」って。私達は意味がわかりませんでした。だからその訳をお父さんに聞こうと思って旅に出ることにしたんです」
涙は驚きでしばらく呆けていた。
「そうでしたか。それで、お父さんの手がかりはあるんですか?」
二人はまた顔を見合わせる。
「実はあるようなないようなというところなんです」
涙は訳が分からず二人を見つめた。
「写真があるわけじゃなくて、あるものが放つ気配を辿っているのです。だからあるようなないようなってことなんです」
「それで、この村にはその気配がするのですか?」
二人はしばし黙る。
「はい。だけど困ったことに、なぜかいくつもの微妙に違った気配があるのでどれかわからなくて」
涙は少し考えた。
「あの、その気配を放っているものってどういうものなのですか?」
「ああ。これです。形が違うものもあるので、これと全く同じではありませんけど」
そう言いながら実木が見せたものを見て、涙は声を上げそうになった。なぜならそれは神器だったのだから。そして涙はここで思った。神器を使って探しているということは、神器を持つ者の中に二人の父親がいることになる。しかし二人の見た目は十歳は越えているように思われた。父親になれるような年の人はいただろうか?
「あの、どうかしました?難しい顔をして考え込んでしまって」
黙り込んでしまった涙を心配して実木が声をかけた。突然のことに涙は焦った。
「え?いや、あの…」
涙は口ごもった。二人は涙のことを見つめる。涙はどうしようかと悩んだが結局言うことにした。
「…その石を持つ人はこの村に数人います。ですが…お二人のお父さん位の人はいなかった気がするんですけど…」
それでも二人は顔をほころばせた。
「あの、その人達に会わせてもらえますか?」
「それは構いませんが、私は今店番を頼まれているのですぐには無理そうなんですが…夕方以降でいいですか?」
申し訳なさそうに言う涙に二人は笑顔を返す。
「時間は何時でも構いません。無理を言っているのは私達ですから。ああ、でも手がかりが見つかってよかった。ね、実木」
「うん。本当によかった」
その時、突然カウンター内のドアが開いた。涙はドアに視線を向けた。カウンターに入って来たのはジェイだった。まだ少し眠たそうな顔をしていた。
「店番を二日も任せてしまって悪かったね、涙。もう大丈夫だから自分の家の仕事に戻っていいよ」
「本当?ジェイ。ああ、よかった。実木さん、実土さん、今から会いに行けますよ」
しかし実木と実土はジェイを見つめたまま凍りついていた。不思議に思いながらジェイのことを見ると、こちらも驚いた顔で二人の顔を見つめていた。一人蚊帳の外に放り出された涙だったが、状況は飲み込めていた。どうやら二人の言うお父さんとはジェイのことだったらしい。長い長い沈黙の後、ジェイが口を開いた。
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