long story 2
□『死神の下り立つ時』
3.光獅の心
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「光獅は自分の仇を見つけた。今必死に追いかけてる。ただ…時々不安になる。その仇が突然なくなったらどうなるんだろうって。復讐を果たしたわけでもないのに。昔のおまえみたいになっちまうんじゃないかって思って」
「難しいな、それは。でも確かに目標がなくなってしまったら、その気持ちをどうにもできなくなる可能性はあるね。だけど…本当に心配性だね。聖は。聖の者のことなのに」
しばしの沈黙がその場を包む。
「どんな存在であっても、人が死ぬのは、俺、嫌だから」
聖の言葉に光獅はドキッとした。そしてくるりと振り返ると歩き出す。
光獅の行動に一輝は驚いた。どうしようか考えた挙げ句、光獅を追いかけた。
建物を出てしばらく歩くと、光獅が口を開く。
「何か用か」
「いや、いきなり帰ろうとするから何かあったのかと思って」
光獅は立ち止まった。そして一輝に向き直る。
「一つ聞いてもいいか?」
「え、うん」
「昼間レポートを手伝った時、記憶障害があって一週間位すると忘れていくって言ってよな」
「うん」
「じゃあおまえは過去のこと、どれ位覚えてるんだ?」
一輝は少し驚いた顔で光獅のことを見つめた。
「えっと…一応小さい時の記憶も少しある。忘れる度合いはまちまちだから。でも病院で目覚める前の記憶は全くない」
「…それはいくつの時?」
「確か七つの時」
光獅は黙った。
「じゃあ…覚えてないのか」
「え、何を」
光獅は不機嫌そうに横を向いた。そして早足で歩き出す。
「ちょっと待ってよ。光獅」
「名前を呼ぶな!」
すごい剣幕で怒る光獅に一輝はたじろいだ。
その時光獅の体から電撃がほとばしる。
「なっ。何で力が」
しかし電撃はおさまらない。光獅は自分の肩を抱き、意識を集中した。次第に電撃がおさまっていく。
完全に電撃がおさまると、光獅はその場に倒れた。すぐに一輝が駆け寄り、呼びかけた。
「ミカエル、ミカエル!」
だが光獅は荒く息をつくだけで答えない。一輝はとにかく保健室に連れていくことにした。
光獅は自分のベッドでうつらうつらしていた。
大学で倒れてからもう三日が経つ。心配する一輝を突っぱね、一人家に戻り、そのまま部屋に閉じこもった。
もう全てがどうでもよかった。
母親が死んだと聞かされた六歳の時から、ただ一輝を殺す為に光獅は生きてきた。
しかし当の一輝はそのことを覚えていなかったのである。
生きてきた意味がなくなってしまった。
ふと顔を上げると窓が目に入る。
このまま消えてしまおうか。
光獅は窓に向かって歩き出した。三日も飲まず食わずの為体がふらつく。それでも窓に到達した。
光獅の部屋は三階。頭から落ちたらひとたまりもない。しかし光獅は何も考えず、窓から落ちた。
だが地面に叩きつけられることはなかった。聖が受け止めたのである。
「たく、明人を泣かせるような真似するなって言ったのに」
ボヤいていると殺気を感じた。数人の聖の者が聖のことを見ている。聖の者の領域だから仕方ない。
「おやめなさい」
女の声が響いた。聖の者達が驚く。
「ガブリエル様。しかし…」
「状況が状況です。今の死神に手を出すことは許しません」
ガブリエルと呼んだ女に言われ、聖の者は退散した。
ガブリエルは聖に近づいた。
「光獅の状態は?」
「今は気を失ってる。かなり衰弱してるな。早く病院連れてかないと。おまえはどうする?」
「光獅がいなくなったら困るから付き合うわ」
「OK。じゃあそばにいろ。一気に飛ぶ」
ガブリエルは聖に寄り添った。それを確認し、聖は飛んだ。
その頃、一輝は明人と一緒にいた。光獅の様子に見かね、明人が訪ねてきたのだ。
ひととおり自己紹介と状況説明をすると明人が切り出した。
「それで、君に光獅に会ってほしい。もちろん身の安全は保証する」
「あの、何で俺なんですか」
明人は一息おいて話し出す。
「君は光獅を傷つけた。そして光獅は君に復讐する為だけに生きてきた」
一輝の頭に言葉が浮かぶ。
「俺が光獅の親を…殺した?」
明人が黙る。
(明人!)
突然頭に聖の声が響いた。
「聖?!」
(マズいことになった。光獅が飛び降りた)
「なっ」
明人は絶句した。
(命に別状ない。だが衰弱が激しいから病院に連れてきた)
「わかった。ああ、彼も連れて行ったほうがいいな?」
(彼?)
「一輝だ。彼に会いに来てたんだ」
(ああ、頼む。じゃ)
声が途切れた。明人はため息をつく。一輝は心配そうに明人を見た。
「すまない。少し付き合ってくれ。一刻の猶予もない状況に陥った」
「え、あ、はい」
二人は人気のない場所から、光獅の元に飛んだ。
病室では聖とガブリエルが心配そうに光獅を見ていた。そこに明人に一輝、零紀がなだれ込んだ。
「零紀?何でここに」