今夜あの喫茶店で
□1.回り道〜viewpoint of YUUKI
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「それにしても大変ですね。あんなふうに追いかけられるなんて」
「見つかると結構なるよ。特に今日は急いでたから困った」
「え?大丈夫なんですか?」
私の言葉に仁は苦笑いをする。
「よくないね。でも仕方ない。それにぐったりしたままの君を放って行くのはさすがに気が引ける。助けてもらったしね」
まっすぐに見つめながらそう言われて、私はドキッとした。しかし心の中で首を振る。
テレビで見る仁は女の子にはいつもこんな調子なんだから。社交辞令だ、と。
「あの、私、もう大丈夫ですから。行って下さい」
「でもまだ顔が赤いし、息切れたままだし…」
心配そうに眉を寄せる仁に、私の中のイメージが崩れていく。もっと軽い感じだと思ってたんだけどな…
そう思うと同時に私の中で一つの気持ちが決まる。
「ファンって程じゃないですけど…black colorの曲はいいなって思うものが多いから。急いだほうがいいなら早く行ってお仕事がんばって下さい」
すると仁の目が今まで見た中で一番丸くなり、凝視される。な、何か変なこと言ったかな!?
内心あたふたしているとフッと優しく笑う。これも今までの仁のイメージとは違うものだった。
「やっぱり自分の勘信じてみてよかったわ。君、名前なんていうの?」
「え?野々原優希」
「今日は無理だけど、時間が合ったら俺らの仕事を見に来ない?」
「え?」
思わず固まった。
「今日のお礼ということで。どうかな」
そう続ける仁に私はパニックになっていた。
「お邪魔になるだけですから!!それにそこまでしてもらうようなことしてませんよ!!」
「そんなことないよ。ファンでなくても芸能人を目の前にしてお仕事がんばってと送り出すなんてなかなかできないって。それとも…俺、信用ない?」
そう聞かれて思わず黙り込む。
「まあ、仕方ないか。そういうキャラで売ってるしね」
「ご、ごめんなさい…」
辛うじて謝罪の言葉だけ口にする。すると頭をぽんぽんと叩かれた。
「いいよ。やっぱり売る為にキャラを作っている部分もあるから。ただ本当の俺を覚えていてくれると少しうれしいかな」
「それは…もう…」
「うれしいな。…実のこというとさ。いくら切羽詰まってたからって初対面の女の子に助けを求めるなんて、とは思ったんだ。でも君が視界に入った瞬間、なぜかわからないけど大丈夫だって思えたんだよね。こうやって少しだけだけど話してその理由がわかった気がする」
「は、はぁ…」
どう答えるべきかわからず曖昧に相槌を打った。