今夜あの喫茶店で

□1.回り道〜viewpoint of YUUKI
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「いらっしゃい、お嬢さん。お嬢さんは珈琲と紅茶、どちらがお好みかな?」
「あっ、あの、紅茶のほうを」
 ハッとしながらそう返すと、おじいさんはにっこり笑った。
「それなら二階へどうぞ」
「はい…」
 そう言われて入り口の横にあった階段を上がっていく。
 二階も一階と同じく照明が抑えられていたけど、大きな窓がある為明るかった。そしてその窓の向こうにいたのは…十羽程の白い鳩。
 物珍しくそれを見ているとカフェエプロンをつけた女の人が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。席はこちらでよろしいでしょうか?」
「あっ、はい…」
 私が慌てていすに座るとメニューを渡してくれる。
「ご注文がお決まりの頃、またうかがいますね」
 お決まりの接客トークをすると女の人は去っていった。渡されたメニューを開く。
 ダージリン、アッサムといった一般的なお茶から、カモミール、ラベンダーといったハーブティー。それに加えてオリジナルブレンドティーが数種類。
 かなりの数に私は悩んだが、結局は無難にダージリンを選んだ。
 数分後、小さいクッキーが二枚添えられた形でカップとポットが私の元に運ばれてきた。早速お茶をカップに注ぐとお茶の香りが辺りに満ちる。
 香りを胸いっぱいに吸い込み、カップに口をつけた瞬間…
 ♪〜♪〜〜
「わっ…!」
 いきなり鳴り出した音楽に私はビクッとした。ちょうど三時になったところらしい。
 その音楽とともに窓の向こうにいた白い鳩達が青空に羽ばたいていく。太陽の光を受けて上空へと飛んでいく鳩は幸せの絵のようで、私はただその光景に見とれた。
 やがて音楽が終わると鳩達はケージに戻り、私の意識もこっちに戻ってくる。そして気を取り直すと少し冷めたお茶に口をつけた。

 喫茶店を出ると私はもう一度スタジオの入り口に向かう。
 入り口は相も変わらず固く閉ざされ、立ち入りを拒んでいた。大きなため息をつくと諦めて帰ることにした。
 自転車にまたがり、少し走ると踏切が現れ、ちょうど遮断機が下りていたから止まる。
「ん…?」
 自分でもよくわからないけど、何かに気づいて横を向いた。すると二人の女の子に追いかけられ、全速力で走ってくる男の子が目に入る。black colorのもう一人、世良仁だった。
 私は一日のうちに二人も芸能人を目にしたことにびっくりして、思わず凝視してしまう。そのうち仁の視線が私をとらえ、目が合う。
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