天使の使い

□1.お使い
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それと同時に銃撃戦が始まった。ファイは物陰で小さくなっていた。
「よし、帰るぞ」
銃の音が止み、倉庫から人の気配が消えていった。ファイは安全を確認すると表に出てきた。倉庫内には、血と硝煙の臭いが充満していた。ファイは顔をしかめつつ、回収すべき魂を探した。ファイが弱い光を感じてそちらに顔を向けると、抜け出した魂が体に戻ろうとしているのが見えた。ファイは素早く確認すると、鎌で魂を狩り、ケージの中に入れた。そしてもう1度、ケージの中を確認した。
「よし、回収終了」
ファイはそう言うと笑った。次の瞬間、銃声が響き、ファイの左手を貫いた。その拍子にケージを落としてしまった。中の魂が外へ飛んでいく。
「げ、ちょっと待て」
ファイは慌てて手を伸ばし、そばにある魂を捕まえようとした。しかし、また銃弾がファイめがけて飛んできた。その方向を見ると、傷だらけの男がものすごい形相でファイをにらんでいた。ファイは素早く外に飛び出し、まだ近くを飛んでいた2つの魂を再回収した。
「ああ、まずったな。急がないと」
ファイは目を閉じ、残りの魂の気配を探した。まず一つ強く反応したので、それを回収しにいくことにした。その魂はある場所に浮かんでいた。ファイが近づくと逃げようとしたが、疲れていた為、あっさり捕まった。その時、別の魂の気配を感知し、ファイは辺りをうかがった。すると、向こうの方からフワフワと魂がやってきた。ファイはすかさずとっ捕まえて、ケージの中に押し込んだ。
「あと1匹。どこへ飛んでいきやがったんだ」
どうやら周辺にはいないらしい。ファイは少し焦った。あと1時間程で約束の時間である。ファイはフルに頭を働かせた。
(最後の1つは、今日1番最後に回収するはずの暴力団の男のものだ。そいつの考えそうなことといえば…)
ファイは急いで男を殺した男達の所に向かった。魂が生きている人間に何かしたら、ファイ自身もただじゃ済まなくなる。今までの苦労が水の泡になってしまう。
「うわあ、来るな」
案の定、最後の魂は自分を殺した男達のもとに来ていた。そして、今まさに、男達を飲み込もうとしていた。この距離では鎌は間に合わない。
「くそ」
ファイは右手を軽く握った。すると白い光が手の中に溢れていった。そして、その光球を魂めがけて思いっきり投げつけた。男の魂は光球をぶつけられ吹っ飛ばされた。ファイは急いで魂に近づき、ケージの中に押し込めた。襲われた男達はびっくりしながらもファイを見つめた。一方、ファイは全ての魂をどうにか捕まえられたことにホッとして、そのことには全く気づいてなかった。
「ふう。やっと全員捕まえたぞ」
ファイは時計を見た。針は23時40分を指している。ファイは焦った。
「まずい!」
ファイは急いで走った。
 結局、ファイが約束の場所に着いたのは、23時56分だった。きれた息を整えてると、いつもようにラファエロが下りてきた。ファイはできるだけ何事もなかったようにした。
「今日もご苦労だったな。いろいろあったようだが」
「え、いえ、別に」
ラファエロはクスッと笑った。
「無理に言い訳をする必要はない。誰だって嫌がる仕事で、いつも人手不足なのだからな」
ラファエロの言葉にファイは自重気味な笑みを浮かべた。
「でもいいんです。もともと無理を言ったのは自分ですから」
そんなファイにラファエロが優しく声をかけた。
「おまえは本当によくやっとくれている。本当に。助かっているよ」
ファイは特に表情を変えなかった。ラファエロはそんなファイを少々痛ましそうな目で見た。そして一度目を閉じ、しばらくして開けると、いつもの紙を取り出した。
「明日の分だ。頼むぞ、ファイ」
「はい」
ファイはしっかりと答えた。ラファエロはそれを確認すると、天へと上っていった。ファイはそれを見届けると、いつものように物思いにふけった。
 ファイはこうして、毎日天使の使いを続けるのだった。
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