今夜あの喫茶店で
□1.回り道〜viewpoint of YUUKI
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私は自転車で祖母の家から自宅へと走っていた。
ちょうど祖母に荷物を届けた後。少し嬉しい気持ちで軽快に飛ばす。しかし途中の交差点で信号に捕まってしまった。
信号待ちでぼーっと待っていると、なぜか横の道に目がいった。
確かあの道を行ってもあそこに出たはず。せっかくだから一つ道をずらして冒険してみようか。
信号が変わった。私は迷わずいつもとは違う道を進んだ。
新たな発見を期待して。
選んだ道はいつもの道と同じように坂になっていた。最初が急で次第に緩やかになっていく。
しばらく行くと道は曲がった。ブレーキをかけ、少しスピードを落とす。
と、そこで工場のような建物が目に入る。思わずブレーキを強く握り、自転車を止めた。
「わあ…大きい…こんな建物もあったんだ」
しばらく見つめた後、私はまた自転車を走らせた。しかしすぐに別の大きな道にぶつかる。
目の前にはこじんまりとした茶褐色でとんがり屋根の二階建ての建物。とても落ち着いた雰囲気のその建物に私はしばらく見入った。
その時後ろから誰かが私を通り過ぎていった。その後ろ姿を見て私は驚いた。
それは人気グループ、black colorの徳永隼人だったのである。
私は驚き、ただ呆然とその姿を見送った。
一方、隼人は大きな道を左に曲がった。
私は慌ててそれを追いかける。
隼人は曲がってすぐのところにあった地下への階段を下り、ドアの中へと入っていった。
私はその後ろ姿をただ見つめた。そしてそろりそろりと階段を下りる。
ドアにはスタジオ・伊吹と書いてあった。どうやら練習場のようである。興味はあるものの無断で入るのは気が引けて、どうしようかと悩んだ。
なかなか気持ちが決まらず、とりあえずキョロキョロと周りを見回した。すると先程の建物が目に留まる。近づいてみると入り口にメニューが立ててあり、喫茶店だとわかった。
どうせ今入っていったばかりだし、すぐには出てこないよね。
そう思った私は喫茶店でお茶を飲んでいくことにした。
中に入ると外観と同じような茶褐色で統一されていて、明かりも間接照明が主でかなり抑えられていた。
大人な雰囲気に思わず立ちすくんだけど、マスターと思われるおじいさんが笑顔を向けてくれる。