D.Gray-man

□君に送る僕の思い
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「クロちゃんが好きだから…他の人みたいにただの記録にしたくない。クロちゃんがオレの中でただのページになって、何時か他の記録に埋もれていってしまったら…そんなのはいやだ。
 オレはブックマンだ。物事を公平に見て、執着なんかしちゃだめで、何事も傍観者でいなきゃいけない。
 解ってる。解ってるんさ。…でもいやだ。
 考えちゃったんさ。もし逆にオレがいなくなったとき、クロちゃんの中でオレがただの記録になったら? …胸が潰れそうだった。」
「…ラビ…」
 きつく唇をかみ締め目を伏せ、カタカタとあふれ出てくる思いを必死に耐える華奢な体にクロウリーはたまらなくなった。

 ラビはこの小さな体で大きな使命を背負っている。まだ18だというのに。
 本来ならただ、笑って時には泣いてすごす青春時代すらラビには無いのだ。
 自分とは違って彼は世界を見てきた。優しい人の温もりに触れて笑って、他の子と変わらぬ幸せな時間を手に入れる機会などいくらでもあっただろうに。ラビはそれをすることが出来ない。

 ――その使命ゆえに。

 クロウリー自身、己の人生が決して楽だったとも思わないが、彼の人生よりはいいと思ってしまうのだ。
 (だって私は知らなかったから……。知らないものは欲しいとは思わない。知らなければ苦しくない。……寂しいだけだ。)
 だがラビはそれを知って尚、それを手に入れることは出来ないのだ。こんな地獄があるだろうか。
 (私には耐えられそうに無い。)
「こんなことオレの我侭だって解ってるんさ。でも、何かオレがクロちゃんを思ってるんだって事を形にしたかった。
本当はもっとちゃんとしたものあげたかったけど、オレ思いつかなくて……。でもこれなら、他の国の行事だし、誰もそんな物だって思わないと思うし、食べちゃえるから、きっとクロちゃんの迷惑に、ならないとおもうし」
 そういって笑うラビをみてクロウリーはもう我慢できないと思った。

 本来これは彼の生き方に反することだ。掟を破ることだ。
 それはより一層その者につらい苦しみを与えることになる。
 それを知っても尚彼はその痛みをも背負おうとしている。
 そうまでしてくれて愛してくれることは素直に嬉しいことだ。

 (だが……。)

「クロちゃん?」
 少し驚いたようなラビの声音。
 自分をきつく抱きしめるクロウリーの腕は痛いくらいで。
「クロちゃん…痛いよ」
 (なら、どうしてそんな顔をして笑うんだろう。苦しいならどうして。そこまで言うならどうして隠すのだろう。私にその思いをくれるなら。そんな顔をしないで欲しい。)
「ラビの言いたい事は十分分かったである。気持ちは素直に嬉しい…だからもうそんな顔をするのはやめるである」
「え?」
 ラビが驚いたようにクロウリーをみた。クロウリーは少し怒ったように、そして悲しそうな顔をしてた。
「クロちゃん…?」
 ラビに向き合いラビの頬にそっと手を伸ばせば、怒られると思ったのか少しビクリと体がこわばった。両手でその小さな顔を包み込み親指で目元を撫でる。

「そんな今にも泣きそうな顔をして。無理に笑おうとするのはやめるである。」
「!」
「私を背負おうというなら、私にその思いをくれるというなら、私の前で嘘の仮面をかぶるのはやめろ。」

 (その重みを受けるというなら、私にも君の重みを背負わせて欲しい。本当の君を見せて欲しい)

 いつに無い射るようなきつい眼差し。鋭い声音。
「―――っ?」
 ポロっとラビの瞳から一滴涙がこぼれる。一つ、二つ、と。
 溢れ出したら止まらないのか、雫が泉のようにわいてそれが次第に川になった。
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