D.Gray-man

□家族
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 オレには家族なんていなかった。孤児だったから。気がついたときにはもうそうだったから。
 生きることに必死でそれがどんなものだろうなどと考えたりもしなかったが、冬の凍える寒さのなかから見える家の明かりはとても暖かそうで。
 ひどく…腹が立った。
 きっと羨ましかったのかもしれなかったが、そのときのオレには腹が立ったと思っていた。

 オレは容姿は良いほうだったようで、容姿に惹かれて寄ってくる奴もいた。
 男もいれば女もいてオレは拒んだりはしなかった。
 生きるために必死だったし、何より快楽は嫌いじゃなかった。

 人の肌は暖かい。
 その皮膚の下に流れる血も暖かい。
 オレはどちらも嫌いじゃない。

 だがこんな不公平な世界は大嫌いだった。
 こんな世界を作った神も大嫌い。
 いっそなくなってしまえば良いと思ったこともある。
 が、しかし思ったところでオレにどうすることなど出来るわけもなく、日々を生き続けていた。


 何度目かの冬、相変らず外から見る家の明かりは暖かそうだったが、オレは腹は立たなかった。
 肌を合わせることを覚えたオレは人の温もりの暖かさってのを知ったから。
 そう、ただ羨ましく思った。
 その時、家族ってどんなもんだろうかと思った。

 こんな生活をしてれば仲間の一人や二人は出来るが、こんな生活だからこそ長く続かない縁もある。
 それこそ病気だったり餓死だったり色々なことで仲間を失った。
 だからオレには家族ってものがどんなもんか良く解らない。
 ずっと一緒にいてくれるそんな存在はオレは一生もてないのではないかと思った。

 そんな時だった、身体に異変を感じたのは。
 オレはいろいろな事をしてきたし、いろんな人間と寝たりもした。
 決して普通の生活とは程遠くて、実際いつ死んでもおかしくないようなそんな生活だったから、
「ああ、オレも死ぬんだろうか」
 とかそんな風に思った。


 目の前に少女と思しき人物とずんぐりとした体系の男が一人。
 男は不気味に微笑んでいて、どうみても普通じゃないのがありありとわかる。
 だが、今の自分も決して"普通じゃない"ことはオレ自身が良く解ってた。
 体中が激痛を訴え、額から血を流し全身が死んでいく感覚。
 いや、何かがオレの体から生まれようとしてるいる気さえする。

 体に異変があってから人に会うのは初めてだった。
 皆異変をきたし始めたオレを皆が不気味がり遠ざかって行ったのもあるし、オレ自身こんな姿を見られたくなかったから誰もいない廃墟のアパートメントに潜り込んで日々すごしてた。
 もう、何日そうして過ごしているのかよくわからない。
 だからこれはオレが夢を見ているのか、それとももう実は死んでいて、死神がオレを迎えにでも来たのだろうか? とそんなことすら考えて。
 でも、次の瞬間オレは悟るのだ。

 少女と思しき人物が愛しそうにオレの髪に触れ皆が不気味がったオレの"額の傷"を撫でる。
 瞬間溢れる涙すらオレは気付かなくて。
「お帰り…ティッキー」
 ジンワリと脳の中に染み渡る声…懐かしい匂い。
 懐かしい気配…。

 ああ、オレの居場所はここにあったのだと、理解した。
 家族が出来た瞬間だった。


 END

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