D.Gray-man

□蝶と兎
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 至極興味深そうに鑑賞して、そっとそれに唇を寄せて見せる恋人に僅かながらの不安を覚えた。
「なぁラビ、危ないぞ?」
「ん〜? なにが?」
 声をかけられたラビは指の上で蝶を弄いながら視線はそのままに声の主に問い返す。
「ティーズだよ。」
 興味を持ったらいつもそんな態度なので、視線が合わぬことなど特に気にはせず、(意識はちゃんと向いてるのがわかるから)そのまま問いかけの答えを提示してみせれば。
「なんで?」
 なんて純粋に不思議そうな顔をして振り返るものだから思わずティキは答えに窮した。
「なんでってお前…一応そいつ食人ゴーレムなんだけど?」
 人を食うんだよ? と言葉を付け加えて。
 食べて繁殖するティーズは人間が大好きだ。勿論食べると言う意味で。
 そんなことは今更言わずとも、この聡い緋髪青年には十分すぎるほどティーズの存在が如何に危険かわかるはずだろうに。
「うん」
 だのにこの青年は"ちっとも解りません"とでも言わんばかりの表情でティキに先を促すように頷いて。その目はいまだに不思議そうな色をたたえてて。
「食われたら…とか思わないわけ?」
 いきなり全て食い尽くされたりはしないにしても、噛み付かれる危険性はゼロではないはずなのに何故こんなにもラビは平然としていられるのか。どんな人間でもティーズを見れば一度は警戒するものだ。それが本能というもの。
 ティキが困惑気味に問いかければ
「思わないさ?」
 と間髪入れずにそう返される。
「どうして?」
 ティキが問い返すのももっともであっただろう。
 だがラビにはなんの問題でもないように、そしてそれが至極当たり前だというように
「だってこいつティキのゴーレムでしょ?」
 と、淀みのない声音で返してきた。
「まぁ一応。」
 確かにティーズはティキのゴーレムであったがそれイコール安全にはならない。
 なのに何故こんなにも当然といわんばかりに断言できるのか。
 喉元に何かが引っかかるような、解りづらい答えに事態を飲み込みきることが出来ず曖昧な返事しか出来ないティキを誰が責められるだろうか。
「じゃぁ平気さ。」
 なんて一人でラビは納得して、ちっともわからない。
「なんで?」
 なので、そんな風に尚も問いかければ、答えは至極甘美なもので……。
「だってティキが自分以外に俺が殺されることを許すなんて思えんもん。」
 俺も望んでないし。
 なんて…。さも当たり前だろうといわんばかりにさらりと言う年下の恋人。

(うわぁ…凄い殺し文句。)

 言外にあんたが守ってくれるんだろうという信頼と、そしてその奥にある自分の命をやるのなら目の前の男であるという絶対的な願い。

(…ゾクゾクする。)

「ま。それに、ティキと同じならきっとこいつも俺が好きさ。なぁ〜?」
 湧き上がるどす黒い誘惑をあっという間に払拭する悪戯っぽい笑み。
 再びティーズに唇を寄せるラビにティーズも"ギガガガガ"と奇妙な鳴き声を上げて、結構満更でもない様子。
 楽しそうにじゃれ合う一人と一匹にざわついていたノアは跡形もなくなっていて。

(…俺だって普段そんなことしてもらえねぇのに……)

 目の前で繰り広げられる光景に、ティーズがちょっとうらやましいとティキが思ったことを知るものは居ない。


 END

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