D.Gray-man
□思いをつなぐ
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自分以外は誰もいるはずのない部屋。そこに突如背後に現れる気配。それだけで待ち望んだ人がやってきたのだと知る。
「Hiラビ」
背後から呼びかかる声に驚くこともなく振り返れば、思った通りの人物がそこにいた。
タキシードに身を包みシルクハットをかぶった見た目は紳士。でも実際はちょっと違う。
「ティキ、珍しいじゃんどうしたさ」
手にしていた本から視線を移して伺いみればティキは手にしていたステッキとシルクハットを消しているところだった。
「まぁちょっと顔を見に。」
そういってベッドに座り込んでいる俺の側までやってくる。
「ふーんノアって暇なんさねー」
「そんなわけないじゃん。結構忙しいのよこれでも。」
「ふーん」
ゆっくり隣に腰掛けてると煙草を取り出し吸っていいかと目で訴えるのを、灰皿を差し出すことで了承する。
「あ、気のない返事だなぁ。」
煙草を咥えマッチをこすり火をつけようとする動作のまま苦笑する美貌。マッチが燃え尽きる前に葉に火をつけると美味そうにゆっくりと吸い込み、マッチを仰ぎ火を消し灰皿に落としながら煙を吐き出す。そんな一連の流れるような動作を見ながら、どんな姿も決まるなーなどと思う。
「あんたのことにいちいち気を使ってたらオレの身が持たないさ」
そういってラビは肩をすくめ、また本に視線を戻す。本当にいちいち気にしていたらこの男とはやっていけないし、普通の神経じゃいられなくなってしまう。彼はそういう人物なのだ。
「まー良いけどね。そういうラビも好きだし。それよりさ、なんかないの?」
そっけない態度にも気分を害した風もなく煙草を咥えたままひょいと手を出してくる。何かを強請る様な仕草。
「なんかって何さ。その手はなんさ。」
本から視線を離しチラリと手を見る。
「なにって、なんかあるでしょ?俺に。」
少し首をかしげながら眉を僅かに寄せる。
「何? 別になんもないけど?」
「ウソッ、マジで!? 今日2/14よ?」
ちょっと本気で焦っているのが見て取れる。
「それが?」
ラビがそういいのければガーンという擬音が聞こえそうなほどの衝撃に打ちのめされたようなティキの表情。
「それがってヒドッ! それが恋人に対する仕打ち!? 俺今日凄く楽しみにしてきたのに…。」
そういってティキはしょんぼりと項垂れる。そんなティキを横目に本の影からちろりと舌を出すラビ。
(この位で許してやるかな。)
今回はお互い随分と長く会えなかった。自分の仕事もあったが、主にこの男は普段何処にいるのかさっぱり解らないので逢いたくても会うことが出来ないのだ。
というのも彼はノアとして暮らす傍ら、人としても暮らすという二重生活を楽しんでいるちょっとノアの中でも変わりもなのだ。ノアとしての仕事のない普段は人として仲間と放浪し生活をしているらしい。連絡を取ろうにもとりようがないわけで。
だからお互いが会えるのは彼が会いに来てくれる時だけ。きっと彼に言えば連絡手段くらい作ってくれそうだが、自由気ままに旅をしている彼も好きだから。
俺の思いだけで縛り付けるようなことをしたくない……と。
だから会えるときは寂しかった月日のウサ晴らしにちょっと意地悪をしてしまったりする。
(俺ってちょっと悪い子さ。)