D.Gray-man
□君に送る僕の思い
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「クロちゃん。これあげる」
そういってラビが綺麗にラッピングされた包みをクロウリーに差し出した。
「これは?」
綺麗な包みを見つめながらアレイスター・クロウリー三世はラビを不思議そうに見あげる。
「プレゼント」
「え?」
(プレゼント?)
「でもそんな大したものじゃないさ。今日は2月14日で聖バレンタインデーっていって、異国の国では好きな人にチョコをあげる風習があるんだって」
(プレゼント…。)
クロウリーとラビは、恋人という関係なのだが、男同士というのは世間では胸を張っていえるものではない。それもあってか、ラビはあまりお互いがそうだと匂わせたりするような特別な贈り物などをしてはこなかった。
本当はもっと違った思いもあるのかもしれないが、それはクロウリーはあえて考えないようにしている。ラビが言わないことを自分だけの解釈で考えるのは良くないと思うからだ。そしてクロウリーもラビのその意思を汲んで、形になるようなものは渡さないようにしている。
そんなラビがチョコとはいえプレゼントをしてくるなんて…しかもこんなあからさまにお互いの関係がわかるものをだ。
(異国の風習だから?)
「ラビ、どうして私にプレゼントを?」
解らない事は聞いた方がいい。誤った解釈をしたくないからとクロウリーはラビに尋ねた。
「オレね、最近考えてたさ」
「ん?」
クロウリーの隣にドサリと腰掛けラビが話しはじめる。
「オレ達いつもこうやって一緒にいてさ、こうやって旅してるけどこれが毎日続く保証なんてないんだって。明日には当たり前にあったものがなくなるかもしれないって…」
「うん…」
ラビの言うことは確かだ。自分達エクソシストは見た目では判別のつかない敵と戦っている。昨日会った者が今日には敵かもしれない。今日在った温もりが明日には失われてるかもしれない。そんな異常な環境に身を置いている。
「オレ…オレね恐かった。誰かに特別にプレゼントを贈るって言うのはさ、その人に特別な思いが宿っちゃうから…。
そうしたら…その人失ったとき…オレ…こわかった。」
「ラビ…」
ラビの言いたい事は痛いほどわかる。特別に気持ちを傾けたものが居なくなってしまう痛み、苦しみ。 胸に開いた穴はそう簡単には埋められない…。
「当たり障りない関係続けてれば、明日いなくなってもオレはきっとその人を自分の記録のなかの一人に出来る。オレはブックマンだ、そうする様に教えられてきた。そうやって生きてきた。でも…オレ、クロちゃんのことオレの記録だけの人にしたくない。」
何かを恐れるようなラビの瞳。
「ラビ?」
クロウリーの問いかけにラビの意識は暫し前にさかのぼった。
少し前の事だ。
ある任務でファインダーを死なせてしまった事があった。
凄く心根の良い人で、人のことをとても気遣ってくれる、本当にいい人だった。
だが、その者がただの動かない肉塊になったとき。
ラビの中でその者はただのページになった。
「あんなに沢山話をしたのに…ただの記録になっただけだった。」
少しずつかたるラビの言葉にクロウリーはただただ静かに耳を傾けた。
「その事実に気付いたとき、悪寒が走った。」
今この目の前にいる愛する人のこともあんな風にただのページになってしまうのかと。
――そんなのいやだ、と。