D.Gray-man
□月
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肌寒い夜、あたりは静まり返りまるで人などいないかのように思わせる。
そんなまるで世界に一人だけの錯覚をおこさせるような空の下で天空を仰ぎ見れば、漆黒の闇に浮かぶ淡い月。
闇に紛れ半身を溶け込ませたようなその姿をみるとなぜか感傷的になってしまう。
「…はぁ…」
重いため息が口をついた。
一泊置いて誰もいないと思われた背後から声がした。
「どうしたであるか?」
「! …クロちゃん…」
驚きに振り向けば、黒い装束を身にまとったクロウリーの姿。
今はイノセンスを発動していないためか、キリリとした発動時の彼とは違う本来の、少し頼りない表情である。
「んー月を見ていたらなんだか切なくなったさ…」
相手の姿を確認するとホッとしている自分に気付く。
彼と出会ってそれほど長い月日が過ぎたわけではない。
だが、出会いからお互いの距離が縮まるのに大して時間など要らなかった。
今では二人は深い仲になっていた。
それこそ大きく胸を張っていえるような関係ではないだろうが、お互い本気だったし、今もそれは揺るぐことはない。
エクソシストなどやっていれば、明日にも死ぬかもしれないという思いはいつでもある。
そんな特殊な境遇だからこそ、一日一日、一分一秒たりとも無駄に互いの時間をしたくないと思う。
こっそり部屋を抜け出したつもりだったか、どうやら起してしまったようだ。
「なんだかそれはまるで、異国のおとぎ話のようであるな」
と穏やかな笑みをこぼしクロウリーが言った。
「へぇクロちゃん結構物知りさ。その話知ってるんだ?」
長年城に篭っていた筈のクロウリーは結構博学で、話をするたび驚かされる。
「お爺さまのコレクションの中にたまたまそのような話の本があって、今思い出したである。」
「そっかぁ」
なるほどと頷きながら、ラビは切なげに月を見上げ笑みを浮かべる。
そんなラビを見ていたクロウリーはラビを抱きしめていた。
「クロちゃん?」
驚いて相手を見上げるとクロウリー自身も自分の行動に驚いたのか自分と同じような顔をしていた。
「あ、すまないである。なんだかこのままラビがどこかにいなくなる気がして…」
あわてたように赤面しながらも、ラビから腕を離すことは無く寧ろ離すまいと腕に力を込める。
切なさが沸き起こり、不安へとつながって。
もう愛しい人を失いたくなかった。
求められる気持ちは素直に嬉しくて、ラビはクロウリーの腕に手を乗せ撫でる。
「オレはどこにも行かないさ…みんなと一緒さ」
自分に言い聞かせるようにも聞こえるその呟き。
クロウリーは旅の途中で簡単ではあるが彼のことを聞かされ、彼の境遇が何となくであるがわかっている。
自分が口を挟めることではないことも…。
普段の明るい彼からは伺えない、誰にも言えぬ悩みを彼は抱えているのだろう。
その性ゆえに。
そう思えばまた胸が苦しくなり、クロウリーはラビを壊さぬよう、だがギュッと力を込めて抱きしめ今の正直な気持ちを口にする。