Pumpkin Scissors

□七夕の魔法3
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 ***


ランデル・オーランドは今の状況に戸惑っていた。
 六つの凍てつく視線。馴染みのない顔ぶれ。どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 ***

 三人の女生徒が威圧的な態度でオーランドに歩み寄ってきたのが数分前のことだ。
 「ちょっと話があるのついてきなさい」とおよそ拒否権などないような高圧的な態度で呼びつけられた。
 2年生であることだけが室内履きのカラーと胸のバッヂで判断が出来た以外は何も解らず困惑するままにつれてこられた屋上。数ヶ月前にオーランドの環境を全て替えることになった件の場所へこんな形で舞い戻ってこようとは思わなかった。
 オーランドにとって一生の思い出になったはずの場所。

「貴方、少し前に転校してきた子でしょ? オレルド先輩と一体どういう関係なわけ?」
 屋上の入口をくぐったところで髪の長いリーダー格の女子が腕を組み傲然とした態度で問いかけてきた。
「関係なんてそんな…」
 オーランドが戸惑いながらもそう告げれば嫌悪感を顕にした顔を隠すことなく平然と毒を吐いてくる。
「ちょっと目障りなのよね。」
「!」
 リーダー格の女子がそう述べると子分宜しく付き添っていた二人の女子生徒が相槌を打つように話しに入ってくる。
「そうそう、アンタみたいな奴オレルド先輩が本当に相手にすると思ってるわけ?」
「先輩は優しいから転校してきて回りに馴染めない貴方を可哀相に思って貴方に優しくしてあげてるだけなのに」
「アンタったら勘違いもいいところ。調子に乗ってんじゃないわよ」
「そ、そんな…俺は…」
 口々に嫌悪感を纏わせた声で告げられオーランドは戸惑いながらも何とか声を絞り出す。
「俺だなんて野蛮ね。」
 リーダー格の女子がそう零せば、「こわ〜い!」などと付き添いの女子達は口々に言い合いさも浅ましいものでも見るような眼差しでオーランドを見た。
「大体アンタ本当に女な訳? どう見たって男そのものじゃない。女装してるって方がしっくり来るわよねー」
 そういいながら品定めをするような眼差しでオーランドを一瞥するとまるで見下すような顔をする。
「本当はオカマか何かなんじゃないのぉ〜?」
 などと言い取り巻き達がくすくすとさも愉快そうに笑う。
 オーランドは堪らず俯き無意識にキュッとスカートの裾を握り締める。
 リーダー格の女が自身の肩にかかった長い髪を気だるそうに払いのけ緩やかに告げる。
「誰も思ってないと思った? 自分は普通だって思ってるわけ? とんだ勘違いもいいところよね。」
「あんたみたいなの目の毒なのよ! 大人しく男の服着てればいいんだわ。」
 ねー? などと相槌を打ち耳障りな笑い声を出す取り巻き。オーランドはギュッと唇を噛み締めスカートの裾を握り締める手をさらに強める。

(似合っていないことくらい解ってる。)

 "普通"の人と違ってどう贔屓目に見ても女の子には見えないごつい体。野太い声。
 男だと偽ったほうがよっぽど"らしい"と世間一般で認識されているのは解っている。
 分かっていた。
 でもずっと自分は女の子として育ってきたのだ。今更自分を偽ることなど出来ない。
 両親の死後、自分を引き取り後見となったミュゼも自身の精神バランスのためにもそうしたほうがいいといってくれた。
 だがそれは間違っていたのだろうか?
 自分は生まれたときから女として生きてきた。本来はどうあれずっとそう生きてきたのだ。
 これからも普通に女として生きたいと思ってどうしていけないのだろう。
 ただ普通に女の子として生きたいだけなのに、どうして…。 

「…どうして…」
 俯き震える拳をギュッとスカートを握ることで宥めすかしながらオーランドがか細く声を出す。
 それに気付いた女達がオーランドに視線を向ける。
「なによ」
 その態度は相も変わらず傲然としていて横柄で、威圧的で、オーランドは一瞬気圧されそうになるが、キュッと唇を一瞬噛み締めると視線を上げて声を絞り出す。
「どうして、見ず知らずの貴方に…そこまで言われないといけないんですか? 俺貴方に何かしましたか? 俺…俺だって女の子です…どうして女らしくいてはいけないんですか?」
 勇気を振り絞って声を絞り出したオーランドにリーダー格の女がみるみる表情を変えイラッとした声を上げた。
「なに? 口答えしようって言うの?」
 俯くだけで言われるままだったオーランドが言い返してきたことに腹を立てはじめた女達が口々に罵詈雑言を吐きたてる。
 オーランドは口を閉ざしながらも気持ちだけは負けてなるものかと視線だけは逸らさず相手を見つめる。それがより癇に障ったのかより一層女達の声が荒くなる。
「あんた一年の癖して生意気なのよ!」
 仕舞いにはその行動がエスカレートし1人がオーランドの身体をドンッと突き飛ばした。オーランドは押されるままによろめき屋上の入口の壁に背をぶつけ鈍い痛みに眉を寄せる。
「大体アンタみたいな男女オレルド先輩には相応しくないんだから!」
 完全に頭に血が上り始めた取り巻きの女子が甲高い罵りの声を発したその次の瞬間、思いも寄らぬ場所から声が響いた。

「相応しい相応しくないってのは一体誰が決めるんだ?」

「え?」
 周りにいた誰もが驚きに硬直したのがわかった。
 それはそうだろう。誰もいないと思った屋上から第三者の思いもよらぬ声がしたのだから。
 オーランドが声の方へと視線を上げれば入口の屋根の上に人が立っていた。
 逆光に眩しげに目を細め、相手を認識するやその瞳は驚愕に見開かれる。

 そこにいたのは紛れもない件の人物、オレルドだった――。



4へ続く

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