Pumpkin Scissors

□王様と召使
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エジプトパロ。



「王は何故あのような得体の知れぬ輩をお側に召抱えられるのか甚だ理解に苦しむ・・・。」
「噂では義母君が王のためにと側仕えに招いた者であるとか・・・」
 家臣達が王座から暫し離れた場所からヒソヒソと話しているのが耳に届く。
 現王に代わってからというものよくある光景ではあるのだが、側に控えていた召使の男はそれを耳にすると、とても胸を痛めたように王を見やった。
 だが確かに聞こえたであろう王は眉一つ動かすことなく涼しい顔で王座に座している。
 ”大臣の傀儡”だなどと噂された現王は家臣達を咎めたてることもなく静かにその場にいるだけだ。


 大臣曰く知性の低く見目の良い操りやすい男を選んだなどといつぞやにのたまわっていたのを聞いたことがある。
 だが召使は知っていた。家臣の話に眉一つ動かす事のない王の瞳の奥には強い意思の光が宿っていることを――。

 自分達の話しなど聞こえてるとも知らぬ臣下達を見やりながら俺はぼんやりと思った。
 "知性が低く見掛け倒しな傀儡"などと思っているのは低脳な家臣達だけだ。王はそんな男ではない。全てを知っていても尚、傀儡であるふりをしているだけだ。
 王は頭のいい人だ。扱いづらいものであると大臣達に見切りを付けられれば事をなす前に自身の命が危うくなることを知っているのだ。いずれ機会を見て何らかの行動を起こすにしても、今その計画を知られてしまっては意味がない。だからその日までじっと人形のふりをしているだけに過ぎないのだ。
 そして、俺が義母が寄越した刺客だということも知っている。
『あの子に出来るだけ近付いて信用を得なさい。来たるその日まで疑われぬように…』
 蒼い光をちらつかされ、何度も何度もそう意識の中に植えつけられた。
 あれを見せられると俺は自分の意思を捻じ曲げられ逆らうことが出来なくなってしまう。
 初めて王に会ってその瞳を見たときに俺はこの人の中の強い意志に気がついた。ただの操られるだけの心無い傀儡でないことに。
 彼はただ俺を見つめただけだった。でもその蒼い瞳に見つめられただけで、俺は特に何か言われたわけでもなかったのに気がついたら全て話してしまっていた。
 自分が義母の命令で親身になるように言われたこと。そしていつかその時が来たら王を消すように言われたこと。
 どうして言ってしまったのか、今思い出してもわからない。でも彼の瞳に吸い込まれるように気がついたら喋ってしまっていたのだ。
 全てを話した後俺は自分の死を覚悟した。
 だが全ての話を知っても彼は顔色一つ変えずに「そうか」と言い、次の瞬間今までみたことがない表情豊かな顔で「話してくれて有難うな」と笑ったのだ。
 そしてあろうことか互いに疑われぬように親身になろうと俺を寝所に招きいれ、それからというもの俺を常に側に置き、身の上の世話をさせる様にと言いつけ現在に至る。



つづかない(笑)

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