Pumpkin Scissors

□Jealousy
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 朝目覚めれば、ベッドの隣はもう冷たくなっていて。昨夜の熱い一時は実は俺が見た幻なのかと一瞬思ってしまう。
 気だるい体を起こし硬直した体を伸ばしながらテーブルへと視線を移せばアイツのメモが置いてあった。

 『猫に餌をあげるので帰ります。
 朝食を作っておきました。よかったら食べてください。――ランデル』

 お世辞にも上手いとはいえない字。簡素で色気もない文面。それがまたデカブツらしいと言えばデカブツらしいが。
 メモを読み終えテーブルの上を見れば皿が置いてあった。その上には埃を被らぬよう読み終えた昨日の新聞が被せてある。図体がでかい割りにこういう気配りがまめな奴だと思う。
 新聞をどけると皿の中身はサンドイッチだった。卵サンドやらサラダサンドなど意外に種類があった。中にはツナサンドまであったが・・・まさか猫缶じゃねーだろうな!?
 俺はいぶかしみつつツナサンドを一つつまみ口にすれば、普通に美味かったのでそんなことはどうでもよくなった。たとえこのツナが猫缶だったにせよ食ったって死にはしないのは過去にエッサンで実証済みであるわけだし……。
 サンドイッチを口に銜えながら俺はコーヒーを淹れるためにキッチンへと向かった。少し面倒ではあるが豆を挽くことからはじめる。インスタントとこいつじゃ雲泥の差だ。美味い飯を食うなら手を抜きたくはない。
 美味い豆の挽き方は、憎らしい奴を思い浮かべつつガリガリ豆を挽くとなかなかいい具合になる。……俺だけかもしれないが。
 手間をかけてコーヒーを淹れ終えると改めて席について朝食をとった。デカブツの作ったサンドイッチは僅かにマスタードがきつい気もしたが、あのでかい手でちまちまとマスタードを塗ったのかと思うとそんなことすらも微笑ましく思える。惚れた欲目って奴か?
 食事を終え皿をキッチンに運ぶと出勤の準備をし始める。
 顔を洗おうと洗面室に立てばふと目の前の鏡に視線が映る。そこに移った自分の姿に思わず笑みがこぼれた。
 別に鏡に映った自分に見惚れた訳じゃない。鏡に映る俺の体の至る所にデカブツのつけた痕が目に留まったからだ。
 キスマークなってのは普段は俺がつけるばかりでデカブツが俺につけるなんて事は皆無だった。
 だが昨日はいつもと勝手が違っていた。俺の胸のところに他の女がつけた真新しい痕がついていたのだ。それはたまたまボスに頼まれて情報収集をした名残でついたものだった。
 普段プライベートで俺がそれをつけていたとしてもデカブツは何も言わないし、気にした素振りも見せない。むしろ女と寝るのは俺の趣味の一環だと思ってる節がある……。
 まぁ男だし溜まる物は定期的に発散しないといけないのは男の生理ではあるわけだが、デカブツの中に嫉妬って感情は存在するんだろうか? と俺は常々思っていたわけで。昨日はそれを身をもって確認することが出来た。
 相当深く酒が入ってたせいもあるかもしれないが、ムードも盛り上がったところにその痕を見たデカブツの奴が突如俺の服を剥ぎ取ると女の痕を消すようにその上からきつく痕をつけてきたのだ。
 今じゃ女がつけた痕なんてわからない。そこら中デカブツがつけた痕へと摩り替わっていた。
 あのあと酒が抜けて我に返ったデカブツは済まなそうにでかい背を丸めて何度も謝ってきたのだが、俺は逆に嫉妬をするデカブツの行動が嬉しかった。それくらいには俺のことを好きでいるんだと実感できたからな。
 あの時の半べそかきながら必死に俺に吸い付き女の痕を消そうとするデカブツの顔を思い出すと、俺は思わず顔の筋肉が緩んでしまう。
「いつもあれだけ素直だといいんだがなぁ……」
 まぁそんな掴みづらいところもデカブツらしいのだが、俺としてはもう少し解り易くあってほしいと思う。
 そうこうしているうちに時間は刻々と過ぎて行き流石に俺は慌てて支度を進める。身支度を整えながら俺はデカブツを想う。
 三課についたら挨拶と朝飯の礼を言って、そのあとは一日この痕をダシにからかってやるとしよう。きっとデカブツの奴は顔をトマトのように赤くして恥ずかしがるに違いない。
 よし、今日も一日が楽しそうだ。

END

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