Pumpkin Scissors

□Snow
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 Snow


「わぁ見てくださいオレルドさん、雪ですよ雪!」
 地下のレストランから地上へと上がると、デカブツが感極まった声を上げる。その声に俺は階段に向けていた視線を上げ、いわれるままに辺りを見回せば一面深々と降り積もる雪景色。
「げっ、マジかよ」
 (寒い寒いとは思っていたがよもや雪が降ろうとは……。)
 自覚すれば寒さはまた一段と高まり階段を上りきる頃にはその寒さに俺は身を振るわせる。
「さみぃー」
 折角デカブツを丸め込んでデートにこぎつけたっつーのにこの寒さたるやもうたまらん……こうなりゃ早めにうちへつれて帰ってしっぽりと一発……二発……。
 そんな俺の邪な考えなど知りもしないデカブツは空から降ってくる雪を瞳を輝かせてみている。
「綺麗ですねぇー」
「そうかぁ? 雪なんて寒いし冷たいし何が楽しいんだか……」
 降り積もる雪をうっとりというような表情で見つめながらそう呟くデカブツ。
 (俺にしてみたらお前のほうが綺麗に見えるがな……)
「……」
 思わず俺は自分の考えに苦笑いをしてしまう。
 (顔に秋刀魚傷のある大男を捕まえて綺麗だなんて俺も大分ヤキが回ったか…?)
 そんなことをもやもやと考えているとデカブツはその場にしゃがみこみ雪玉を作ると立ち上がって俺を見た。
「少しだけ遊んでいきません?」
「はぁ? おいおいティーンのガキじゃないんだぜいい年した大人が雪遊びなんて……ぶっ!!」
 言い終わる前にデカブツが投げた雪玉が飛んできた。ボスリと俺の顔面にぶつかり割れた雪球はデカブツが気を使ったのかやわらかく、さして痛みなど伴わなかったが俺の闘争本能に火をつけるには十分だった。
「やりやがったな」
 そういうや否や俺は手近な雪をつかんで握るとデカブツに投げつけてやった。
 それが合図になって、後はガキみたいに騒ぎまわり互いに投げつけあっては互いを追いかけ、逃げ惑いながらと街を走り抜けていけばいつの間にか大きな広場に出た。
 どうやら公園のようだったが夜も遅くそして何より積もった雪のせいか辺りに人気はなく、まだ誰にも踏み入っておらず辺りは新雪で埋め尽くされていた。そこへなだれ込むように俺たちは互いに走りこみ息を切らせどちらともなく白い雪に身を沈める。
「はぁはぁはぁ」
 ボスリと仰向けに倒れこむデカブツの横に俺も倒れこむ。
「あちー」
 ぱたぱたと服の胸元を仰ぐ。ガキみたいに走りまくって身体はへとへとだったが、おかげで体温は熱いほどで、さっきまで寒かった雪が今はとても心地よかった。
「あーしんどいぜぇ…なんで、俺達こんなことしてんだ…」
「あは…でもとっても楽しかったですよ」
 そう言って嬉しそうに笑うデカブツをみて、こういうのも悪くねーかと思った。そうしてそう告げてやればまたデカブツは嬉しそうに笑った。
 熱で薄桃色に肌を染めて息づくデカブツ。そんな姿を見ていたら疲れなど不思議と忘れてしまった。
 気がつけば俺はそっとデカブツに覆いかぶさり口付けていた……。デカブツは少し驚いたように瞳を大きく開いたが、暫くするとそっと瞼を閉じた。
 啄ばむように口付ければデカブツはうっとりとした瞳で俺を見つめてくる。そんなデカブツの姿に俺はたまらず首筋を暴くとそこに唇を寄せ吸いつき腰に手を這わす。
「んっ…あっ…! オ、オレルドさん駄目です!」
 慌てふためくデカブツの声に俺は我に返ると高ぶり始めた欲望をグッと押さえ込む。
「…解ってるこんなとこでやったりしねーって」
「当たり前です!」
 俺が苦笑しながら離れると、恥ずかしそうに目尻を朱に染めるデカブツはやっぱり俺の胸を高鳴らせて……早くこの腕の中に抱きたいと思った。
 はやる気持ちを抑えながらその場から立ち上がると俺はデカブツを起こしてやり服に張り付いた雪をはたいてやる。
「なぁ今夜は泊まっていくだろ?」
 雪をはたきながらさりげなくそう問えば、
「…えっと…」
 俺の言葉からその裏を悟ったのだろうデカブツは首まで朱に染めてオロオロと目を泳がせる。
「嫌とは言わせないぜ?」
 恥ずかしそうにしているデカブツの手をとりそっと唇を寄せて流し見れば、頬をばら色に染めたデカブツが羞恥に潤んだ瞳でそっと頷いた。


END

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