戦国BASARA

□逢瀬
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 二人で会う時はそこを使ってた。森の奥深く。あるのは川と、虫達の声。別に互いにそこにしようって言ったわけじゃない。ただ、初めて会ったのがそこで、彼を見つけたのもそこだったからかもしれない。何となくそういう事になってた。静かで、暗くて、忍がまぎれるにはこれほど相応しい場所もない。人に知られていないからこそ此処を選んだが、これだけ好条件が揃っているのだ、いつ他の誰かに気付かれないとも限らない。それを承知しながらも此処へやってくる。いつに会おうと示し合わせたりはしない。互いに暇ではないし、戦況が変わり、互いがいつ敵になってもおかしくなかったから。それでも、会いたくなってやって来る。いなくたって構わない。そこへ行けば二人だけの時間があったから。

 目的の場所へ辿り着けば人影を見つけて、一応の警戒を示す。己の獲物を構え相手を窺う。そして、それが目当ての人物だとわかるとゆっくり物影から姿を見せる。まだ警戒は解かない。
 相手の表情は窺えない。彼はいつも目深く顔を隠しているから。それでなくても、彼はいつも凪いでいたから、解り辛かった。互いの距離が手の届くほどの距離になり、ゆっくりと口を開く。
「久しぶりじゃない、小太郎」
「(…………佐助)」
 その会話を合図とし、互いに獲物を下げる。
 静寂の中、緩慢な動作で緋髪の男――風魔小太郎は顎紐に手をかけると兜をはずした。それに習って目の前の男――猿飛佐助も面頬をはずす。
「元気してた?」
 そう言って、猿飛の手が風魔の頬に触れる。初めは指の腹で撫でて、そして親指の腹で撫で、最後に掌を這わせる。確かめるようにゆっくりと。その手にそっと風魔の手が絡んでくると猿飛の言葉にゆっくり頷いた。

「(……佐助は……)」
「俺様? まぁ元気かな。お給金は相変わらず安いけどねぇ」
 そう、軽口を叩くのはいつもの事。それに対して風魔は特に何も返さずただじっと触れる猿飛の手に己の手を合わせている。
「……会いたかったよ」
「(……)」
 思わずこぼれた本音に、風魔はやはり何も言わなかったが、絡む手にグッと力がこもり猿飛の手を己の頬に押さえつけた。

 それで十分だった。

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