戦国BASARA

□菓子をくれねば悪戯するぞ!
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「トリック・オア・トリート!」
「・・・・・・」
 笑顔で差し出されたその手を、風魔小太郎は感情の窺えぬ目で見た。


 今日は10月31日。日ノ本では何の変哲もない日、強いて言えば月の終わりだ。だが近年異国文化を広める妙な宗教団体がおり、日ノ本にハロウィンなるものが広まりつつあった。

 ――ハロウィン。

 起源はとある異国の国で、その国では10月31日が一年の終わりとされ、その日は死者の御霊が家族を尋ねたり、精霊や魔女といわれる者たちが出くると信じられていた。それらから身を護るために民達は、それらに紛れる様仮装をし魔よけの焚き火を焚いていたのだという。これが一般的なハロウィンの全容なのだが、その宗教団体が嬉々として語ったのはもうひとつの風習である。
 それは子供たちが仮装をし、カボチャやカブをくりぬいた行灯を手に各家を回り「トリック・オア・トリート」と唱えると、言われた者は何かしらの菓子を渡さねばならないのだ。「菓子をくれねば悪戯する」と言う脅し文句の元、菓子を渡せなかった者は報復の悪戯を受けるのも止むなしとされているのである。
 そんな話が日ノ本にまことしやかに広がるや否や魔よけの件は何のその、子供が家を回るという部分もすっぽ抜け、すっかり菓子をもらえねば悪戯していい日に早変わりしてしまった。祭り好きな日ノ本の者にとっては起源はどうでもよく、祭りが出来る体のいい理由があればそれで良かったのかもしれない。そして冒頭に戻るのである。

 今日はハロウィンだ。つまり手を差し出した男、猿飛佐助は祭りにかこつけて想い人である風魔小太郎に悪戯をしてやろうと目論み、偵察という名の名目でここ小田原へとはせ参じたのである。
 猿飛すら関心するほどの生粋の忍で任務を遂行する以外に全く頓着しない風魔である。祭り事になど興味もなく、当然菓子など持っておらず、猿飛は正当な理由を持って風魔に悪戯を出来るとふんでいた。・・・・・・のだが。

「え?」
 ひょいと投げつけられたものを猿飛は反射的に受け取り見やると、そこには饅頭があった。まごう事なき菓子である。
「な、なんで!?」
 この男に限ってそんなものを持ち歩くはずも無いとタカを括っていただけに、思わずそんな言葉がポロリと口をついた。風魔はそれについて特に気を悪くする事なく種明かしをする。
 いわく自身の仕えている北条氏政が、今日はハロウィンだと兼ねてより触れ回っていたため、声をかけられる可能性があるため形だけでも持っていたのだという。基本的に風魔に悪戯を仕掛けようなどという勇気ある者はいない為、渡したのは氏政を含めれば佐助で二人目であることも。
「マジかよ・・・・・・爺さん余計な事を」
 自分の計画が台無しになり思わず口をついた言葉は、悪気はなかったものの風魔のお気に召さなかったらしい。
「(氏政様のお心が余計なものと?)」
 表情に一切の変化はないが風魔の気配が剣呑なものに代わる。今にも忍刀に手を伸ばしそうな風魔に気付き猿飛は慌てて弁解の言葉を口にする。
「ちょ、ちょっとたんま! 違うって! 爺さんは悪くない。俺様そう言うつもりじゃなくて・・・・・・ごめん言い方が悪かった。」
 普段何事にも明るい態度を崩さぬ猿飛が申し訳なさそうに声音を小さくするので、風魔はじっと動かず先を施させる。
「小太郎はこういう祭りごととか興味ないと思ってたから、きっと菓子なんか持って無いと思って。だから俺様祭りにかこつけてちょっと小太郎に悪戯して、あわよくばちょっと睦みあえたらって思っただけ・・・・・・」
 本当に悪気はなかったのだと気落ちする猿飛に、事の次第を理解した風魔から剣呑な気配が消える。ばつが悪そうしている猿飛を見ながらゆっくり口を開く。
「(なら奪えばいい、忍らしく)」
「え? 今なんて?」
 視線をそらしていた佐助には風魔が何かを言った事は気配でわかったが、言葉の内容まで解らず聞き返すと今度は風魔の手がこちらに差し出される。
「(トリック・オア・トリート・・・・・・だったか)」
「え?! えっと、俺様菓子なんて持ってない」
 よもや自分が問われるとは思わず猿飛は狼狽えた。それを見るや否や風魔の口元がほんの微かに上向いたようだった。
「(では悪戯を受けても止む無し、だな)」
「え?」
 瞬間、突風が吹き黒羽が舞うと猿飛の眼前に風魔の姿が迫る。条件反射のように思わず身構えそうになった猿飛の動きをいとも容易く押さえ込むと風魔は身を乗り出す。
「――。」
 不意に猿飛の唇に何かが触れて、離れた。それが風魔の唇であったと気が付いた時には、辺りには黒羽が舞うのみで、風魔の姿は影も形もなかった。
「・・・・・・マジで?」
 あまりの事に驚いて、状況が理解できず思わず己の唇に触れると、先の感触をまざまざと思い出した。そして頭が理解すると忍にあるまじき体で赤面し悶える猿飛の姿を、鴉だけが見ていたとかなんとか。


 菓子をくれねば悪戯するぞ!





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悪戯するのは何も旦那だけじゃないよねって話。
嫁だって襲います(´∀`)

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