選択と道標 〜パラレルとリアル〜

□最終章:紡いでゆく未来(あした)。





*細谷と杉本のその後。






―――ドタバタの打ち上げが終わり、全員解散になった。






野島の野郎はとっとと逃げちまうし、クソッ!!今度現場で会った時は覚えてろよーっ!!






「・・・そんなことがあったんか・・・。ゴメン、変に取り乱してしもうて」
「杉本さんのせいじゃないですよ。あの人が変な液体を入れたのが全部悪いんです」






覚えていなかった出来事(抱き締めたこと以外)を説明すると、杉本さんは「恥ずかしい・・・」と言って、顔を両手で隠した。








過度な心配や俺のぶっ飛んだ行動に泣かれることは度々あるけれども、心の声まで吐露すると言うのはあまりない。





だから、少しでも過去の悲しみを知られる機会を得られるのは良いんだけど・・・。






「もうちょいやり方って言うもんがあるだろよ・・・。ちゃんと考えろよ」
「細谷はん、何言っとるんや?」






おっと、いけないいけない。これじゃああいつがやったことを肯定していることになってしまう。





俺はそんな悪の道には染まりませんよ杉本さん!






「変なこと言っとると思ったら、今度は顔をにやけさせとる・・・。気持ち悪っ」
「な゛っ!!」






杉本さんに「気持ち悪い」と言われて、不覚にもゾクゾクしてしまった・・・。ああ堪らん、もっと言って欲しいです!!






「ハアハアハアハア」
「うわっ!!あんためっちゃ汗出とるやんか!!この時期もうそんなにあつぅないよ!?」






い、いけないいけない・・・。欲望が完全に暴走していた。俺の中のS(杉本さん大好き)っ気が完全に解き放たれるところだった。







「・・・それにしても、あんたはいつから美味しいとこ取りになったんや?」






急に冗談交じりな声が聞こえてきたから俺は杉本さんの方を見ると、笑顔を浮かべていた。






少しおかしそうに、でも、嬉しそうに。






「野島君に勝つ為って言うのは分かったけど、せやからって千秋楽のしかも終盤に来るって、主人公顔負けな登場の仕方やん」
「完全に参加しないだと、他の方にも迷惑がかかると思ったので。勿論、杉本さん第一ですよ!」
「それも分かったから・・・。でも、せめてわいには一言欲しかったって思う」






そこで、しゅんと目に見えるほどいじけられる。





そんな表情を見ると、更に胸が痛い・・・。







「・・・すみません。ですが今回は、杉本さんでも俺が来るということを伝えられませんでした。最初はすかじゃんに言うのも躊躇ったんですけど、どうせ稽古でバレますし、それなら言ってしまえと。口が堅いのは知ってますし」
「あんたらほんま仲良しやねぇ。付きおうとるんか?」
「付き合ってないですっっっ!!んな皆川さんみたいなこと言わないで下さいっっっ!!」






全くもうっ、仲が良い風に見えるだけですぐに「付き合ってる?」って聞くのはどうかと思いますよ。そんなん興味ないです。







「―――でもな、さっきのことで一つだけ、覚えとることがあるよ」






急に立ち止まり、街灯に照らされた杉本さんの表情は、はにかみつつも幸せに満ちた顔をしている。







「あんたが、取り乱していたわいをギュッと抱き締めてくれたんやろ?心地いい温もりを感じたし、汗のにおいがあんたのものやったから。それは、ほんまに嬉しかった」






ありがとな、と微笑む彼女に、俺はせっかく止まっていた涙がまた零れそうになった。







「うえっ、うえっ、こちらこそありがとうございますぅっ!!」
「ちょっ!!?あんま大声出すなやっ!!あと泣くなやっ、近所迷惑やろっ!!」







宥めるように、俺の背中をポンポンと叩く杉本さん。





ついつい、こんな風に立場が逆転してしまうけれども、肝心な時にはちゃんと貴女の救いになれるのが堪らなく嬉しい。






「今度はちゃんと、最初からいますねっ!!ああでも、もう一度杉本さんが仕切る姿も見たいです」
「アホ言うなっ!!あんたは部長なんやから、あんたが仕切れやっ!!」






ベッシーンッ!!と背中を強く叩かれ、俺は地面にゴッツンコした。






それを見て愉快そうに笑う杉本さんを横目で見て、(ああ、そういう風に笑う方が安心するや)とますます俺のS(杉本さん大好き)っ気は増したのだった。
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