03/31の日記
22:51
全力の本気(疲れるわぁ・・・)。
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◆追記◆



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「―――さあ、いよいよ最終週です。私らと文化放送の宗教戦争、仁義なき戦いにいよいよ終止符が打たれみゃす!!」

「最初からずっと言ってるけど、争いは無し。譲れない部分を認めつつの和解だから、まーあなかなか難しかったよねぇ・・・」

「あと最終週と言えば、超カオスな企画ですよね!!おばあちゃん!!」

「ずっと引き摺られそうな気がすんねぇ・・・」



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いきなり全力からフルスロットルだった。抑えられないほどに全開だった。



(いやぁ―――、基本車の身からしたら、路線なんてわっかんねぇぞー?)



それは永井さんも同じだったのだろう、イマイチ路線を理解していなかった。




「いいえ?私はギリ分かってみゃしたよーぅ?ええ、山手線でも水道橋へは行けるんですよーぅ?」
「だから、乗り換え必須じゃね?」




何故か何かと張り合ってた。永井さんの負けず嫌いがここに来て炸裂してる。




「とっとにかく!!今日中に解決しみゃいと!!このままですと、ちっひーしゃんに不味いですしね!・・・しかし、あの幽霊は一体どこにいるんですかね」
「先週みたいにもしかしたらスルゥっと現れてくれるかも知んねぇし」
【あなたの言霊に呼び寄せられて、向こうから来ましたよ】
「ぅえっ!!?」



アマテラスの言った直後、朧げな、いかにも幽霊です!!と言わんばかりの人影が突如俺らの目の前に現れた。



白色のお包み?に身を包んで、その色に負けないほどの血の通ってない肌の色が印象強い。



「この人(?)が、四谷の幽霊さん?」
「ですね。・・・喋れないみたいです」



俺らの警戒に、その人物は首を左右に振って両手を上げる。【こちらは何もしない】と意思表示していた。




【敵意はなさそうです。どうやら、あなた達をどこかに案内したいようです】
「案内?そうなのか?」



問うと、首を縦に振った。そして、ついて来いと言うように、ブースの扉をすり抜けていった。




「うぉっ!!?スゲェー幽霊っぽい!!」
「直純しゃん、追いみゃしょう。見失わないとは思いみゃすが、時間が惜しいんで」



永井さんの合図に、俺達は幽霊を追いかけた。




幽霊が堂々といると言うのに、廊下を歩いている人達は幽霊に反応していなかった。



それどころか、どこかへ向かおうとしている俺達にさえ、気づいていない。




「まさか・・・、神界?死んだ世界に俺たちを連れて行く、とか?」
「んなイザナミじゃみゃいんですから・・・。あいつの場合は空間ごと引き摺りこもうとしみゃしたが」
【大丈夫です、死者の世界ではありませんから。―――この部屋のようですね】




幽霊は立ち止まると、扉を指さした。【この中だ】と。



「その中に入ればいいんですね?―――変なことはしないだろうな?」




永井さんが殺気全開にすると、幽霊は怯えたように震えあがった。



「ごめん、脅したかったわけじゃないから。ね?」
「みゃっ、みゃあ、手加減なさすぎみゃしたよぅ・・・。駄目ですね、ほんと。ついつい全力になってしみゃいみゃす」
「だから道案内も全力になっちゃうんだわな・・・。俺達」



知ったかが何言ってんだと言う感じだが、幽霊は【まだか?】と首をかしげた。



永井さんは俺を背後にやると、ドアノブに手をかけた。


俺を自分の背後にやるのは、何かあった時にすぐ対処が取れるようにと言うのは、よーく知ってる。俺としては俺が前にいても良いと思うけど、“加護”が無いとただの“人間”だしねぇ・・・。役立たずすまん。




「・・・じゃあ、入りみゃすよ」
「うん」



ゆっくりとドアを開けて、恐る恐る中を確認。何かが飛び出す気配は感じない。


そのまま勢いよく全開にすると、目に飛び込んできたのは放送局とは思えない不可思議な空間だった。




**



「―――ここで一旦締めるけど、何となく分かる、よね?」

「ええ、何となく分かりみゃす」

【本当に理解してるんですか?特に貴女】

「がーっ!!分かってみゃすよぅっ!!モチのロン分かってみゃすよぅっ!!?」




**



「ここって、礼拝堂・・・?」
「ですよね。十字架がありみゃすし、聖母マリア像も置いてありみゃすから」



浜松になってからは宗教色は薄まってるって耳にしてたけど、部屋の中はまるで教会のような空間だった。


お馴染みの椅子は置いてないが、中央には十字架とキャンドル、あと神父さんが使うような台、その横には小さなマリア像が置かれている。




俺はふと部屋の外を振り返ると、四谷の幽霊の姿はいなくなっていた。




「あの幽霊は四谷の記憶も持ってるから、私達に最もここをよく知る為の場所を的確に教えたんですね」
「初手でいきなりここって、ダイナミック過ぎじゃね?はー・・・」



ここは、ショッピングモールとか駅とかにある“ああいう感じの場所”なんだろう。微かにロウの溶けた臭いがしていた。




暫く見入っていると、永井さんがハッと現実に帰った。




「ここに来たのは良いんですけど、何をしたら解決になるんですか!!?」
「んんんー・・・、言われてみたら。来たのは良いけど、どーしたらええんじゃろう?」
【えっ、と、“貴方らしいアピール”をしたらいいんじゃないんですかね?「敵じゃないよ」って言うアピール。ブース?と違って、ここならばそれが直接通せるでしょう】
「なるほどぉー」




元々の原因であるアマテラスにそこを指摘されるのもアレだけど、でも、そうだよなぁ。俺達らしいアピールをして、ここと和解しないと。




「俺らしいアピールって、歌うことしかねぇけど・・・」
「みゃっ!それですよぅっ!歌は太古から繋ぐものだと、高山しゃんが仰ってみゃした!それに直純しゃんの場合、それが祝詞になりみゃすからね」
「そいでいいの?」
「良いですよぅ良いですよぅ。さあ、刺激しない程度に全力でアピールしちゃいみゃしょう!!20周年ですし!」
「!」



―――20周年。そう聞いて、ここに響かせる歌が自然と定まった。




俺は声帯を整える為に、少しずつ、ゆっくり、1トーンずつ音を引き出した。一気に出すんじゃなく、徐々に“音”を作り上げてゆく。



単調だった“音”は、形となってゆく。呼吸と同じようにして、吸っては吐いてのリズムで“音”を1つずつ出す。



永井さんがふと、俺の手を握りしめた。俺が“行き過ぎないよう”にバランスを取る為だ。




(大丈夫です)と静かに目配せ。このリズムを狂わせないように。



そして俺は、自分から吐き出した数々の“音”から、“歌”を紡いだ。





昔からずっと大事にしている、俺を象徴する歌―――“ALIVE”




何度歌ってる歌でも、ステージとは違う響き方や感じ方をする。更にアカペラでやってると、どことなく厳かで、しかし確かに響いている。


なるべく力強く訴えかけるのではなく、あくまでも相手に呼びかけるように“紡ぐ”。



この歌は、今のこことも合っている気がした。まるで昔の俺みたいだったから・・・。





「―――この声が届くならば、迷い抱いて過ぎたSeason」




蘇る、今日(こんにち)までの出来事を。


何かにぶつかるたびに心が折れそうになって、実際酷く折れた時に俺は自分で自分を消すことを選んで・・・。



(そして、気がついたら、【神】がいた)



その【神】が原因で、こことはしょっちゅう衝突した。アマテラスとは真逆だったから。



でも、それじゃあお互いに良くない。俺はここを嫌ってるわけじゃないし、敵対したいわけじゃない。



こっちのことを分かってほしい気持ちはあるけど、それじゃあ相手を一方的に支配してしまう。だから―――。




「破れた空、繋いでみせる、叫び続け伝えるんだ」


「この声を届けるから、まだ見果てぬ先のSeason」



だから、心を開いてほしい。全ては難しいけど、そっちのことも教えてほしい。




「君の心、すべり込んで、悪夢すべて、かき消すよ、―――ALIVE・・・」




最後の旋律を絞り出すように響かせ、そして自然と消えてゆく。



俺は全て出し切って、全身で呼吸をした。1曲だけだったのに、ライブをやったかのような疲労感が襲った。


無意識に、膝から崩れた。





「みゃっ、大丈夫ですか!!?」
「はあ・・・、めっ、めっっ、ちゃ、疲れてんわぁ・・・」
【全神経を注いで歌っていましたからね。いつもの倍は負担がかかってます】
「マジかぁ・・・。やっぱ身体が鈍ってくなぁ・・・」




永井さんが急いで“回復”をしてくれたからか、若干マシになった。



歌は確かに届けた。でも、まだ周囲を漂う嫌な気配は拭い去れてない。




「うみゅみゅみゅ・・・、直純しゃんの渾身の1曲でも駄目とは。ここまで来ると有料になりみゃすよぅっ!!?」
「チョイチョイ、不用意に煽らんといて・・・。・・・って!!?」




左肩に違和感を感じて振り向くと、消えたと思った四谷の幽霊が俺の真横にいた。何かジェスチャーしとる。



「何かを握りしめて、構えて、放つ・・・?何だろ・・・?」



回復したとは言え、まだ全快じゃない俺は一体何の事だろうと悩んでると、永井さんとアマテラスが心底呆れたように代弁してくれた。




「要するに、矢を放て、ってことですよぅ」【要するに、矢を放て、ってことです】
「お〜〜〜、なるほどぉ〜〜〜。―――って、んなジト目で呆れんのはやめて。ほんとにやめて」



ゆっくり立ち上がって、呼吸を整え直す。歌う時とは違う行為だから、身体の中の酸素を入れ替える。



「この空気を払拭する為に、矢で禊げと言うわけですね?」




準備をする俺に代わって、また永井さんが聞いててくれてた。首を縦に振ったから、合っているようだ。




【禊となりますと、完全に私の権限下になります。それでもよろしいと?】
「みゃあ、歌は確かに届いたようですが、怨念?のようなものが妨害してるみたいみゃんで、それを祓ってほしいそうです」
「怨念・・・。聞いちゃ不味いのかもしんないけど、もしかして、恨みを買われてる・・・?」
「直純しゃん、それ以上は流石に“踏み込んではいけない領域”です。今はこの幽霊の言う通りにしみゃしょう」



(あヤッバ、これは駄目だったのか)



そーだよねぇー、長年蓄積されてる恨みは気軽に解放しちゃいけないよねぇ・・・。こりゃ失敬。危うく踏み込み過ぎそうになったわ。



弓矢を顕現して、いつものように構える。



(・・・で、何処に放てばいいんだろ?)





「永井さん?何処?」
「みゃあみゃあ、そのまま中央の十字架目掛けてだそうです。おいアマテラス!お前は万が一貫通してしまう前に、しっかりやれよ!!?」
【私に対してだけアバウトなんじゃないんですか!!?そんな失態しませんよ!!?】



まあ、【神】にも過ちはあるわけで・・・。いかん、それは考えないようにしよ。



矢先の焦点を合わせて、強く引っ張る。これは禊行為だから、真剣にやらないと。いやさっきのも超真剣だったんだけど。





「さっきも歌詞にあったけど、ここままじゃあ駄目だと思うんよ。それは俺にも当てはまるし、そして、ここも」




―――自分で行動しなければ、何も始まらない。誰かがどうにかしてくれるわけがない。



この問題を解決するには、俺達が動かなきゃ意味が無い。





「だからさ、まあちょっと不快かもしんねぇけど、そこはほら、“日本”って言う一括りの同じ国に住んでるもの同士、オープンにやってこうぜ?俺もこの機に、聖書でも読んでみっから」



そう言った時、永井さんが「み゛ぇっ」と声を濁らせたが、何処かで妥協しないと不味いでしょ。




そう、誰かがどうとか比べるもんじゃない。


自分は自分、相手は相手、これはどうしても変えられないし、違うのはどうしようもないけど、違うからこそ寄り添うことは出来る。



力まなきゃいけねえけど、僅かに笑みを作った。




「俺達はまだまだ行くからさ、―――だから、今後もよろしくお願いします」



ふっと、言葉と風に乗せるように、矢を放つ。



矢先は迷うことなく十字架に当たる直前、強い光を放った。“最後の約束の時”のように。




不意に聞き馴染んだ声がしたが、それは一瞬のことで、誰が何を言ったまでは聞き取れなかった。




**



「要素てんこ盛りで一気に抜け切りみゃしたが、いやぁ・・・、最初からギアフルスロットルですねぇ・・・」

「いやぁー。やっぱ最終週の俺達って、全力過ぎたよね!あひゃひゃひゃっ!!」


【笑い事ではないんですが!!?―――それで、あの後はどうなったんですか?】

「ああそうね、じゃあ、エピローグっつーことで、ほんの少しだけお付き合いを」



**



光が消えると、漂っていた嫌な空気は一掃されていた。


禊が無事に消えたことに安堵していると、四谷の幽霊の透明度が上がっていた。今にも成仏しそうな。




「・・・もしかして、あなたはこの怨霊達をどうにかしてほしくて、私達に助けを求めたんですか?」


輪郭が分かりにくいほど透けた霊は、首を縦に振る。




「俺達が知らなかっただけで、最初からずっといたのかもしんないね」
「そのようですね。そして、直純しゃんの“神気”にあてられて、攻撃態勢になってたんですね。「こいつを排除しないと!!」って。“賛美歌”が所定の人にしかダメージを与えない理由が分かりみゃしたよぅ・・・。本物の心霊現象みゃんですから、そりゃあ精神へのダイレクトアタックも可能ですよぅ」
「うわぁ・・・、そっか」




幽霊は優しく笑うと、口パクで「あ・り・が・と・う」と告げて、今度こそ完全に消えた。



「・・・これで、良かったんかな」
「良かったと思いみゃす。笑ってみゃしたから。あなたの“想い”がしっかり届いたと言うことです」
「んっ・・・」



泣きそうになって、服の袖で目をこする。この流れで泣き顔なんて何かちげぇし!!



「はあ、これでやっと、宗教戦争に終止符を打てみゃしたね。―――んみゃっ?」
「ん?“ボドッ”?」



今、俺らの目の前にぶ厚い本が2冊落ちてきた。表紙には【新訳聖書】と書かれている。



「えっ?」



しかし驚く間もなく、次から次へとカトリック関係の書籍やらアイテムやらが落ちてくる。




「わああああっ!!?何だ何だ!!?」
「直純しゃんが「これを機に聖書を読む」とか言うもんですから、きゃつら、最後の力でカトリック入門セットをキッチリ“2人分”用意してきてみゃすよぅっ!!?」
「えーっ!!?俺仏教なんに!!」
【余計にややこしくなりますよ!!】



結局最後に、永井さんが持ってた“聖十字架”を強く突きつけたことで何とか理解してもらえて、入門セットの普及は途中で止まった。



聖遺物ってスゲェー。





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「・・・まあ、あれから少しは読むようにしてっけど、元々本読めねぇから、進まねぇ・・・」

「だから気軽に言うなと。直純しゃん言霊の力も半端みゃいんですから、下手なことを言っちゃ駄目ですよぅ」

「今まで俺達に嫌がらせをしてたのは、四谷時代から来てたであろう怨霊達だったんだよねぇ・・・。アマテラスの“神気”に刺激されて、攻撃モードになってたんよ」

「人の形さえ保ててなかったので、一体何が原因で。と言うのは触れずに行きみゃしょう・・・。下手に触れると不味いですから」

「いやぁ〜〜〜、ああいう厳かな場所で歌う“ALIVE”も、いいねぇ〜〜〜。新鮮な感じがしたわぁ〜〜」

「直純しゃんにしか出来ないアピールでしたねぇ、あれは。―――そんみゃわけで、グダグダふわふわでしたけど、最後はきっちりやる!有言実行で、宗教戦争を終わらすことが出来みゃしたよぅ!」

「ね〜。これで安心してみんな放送出来るね!いやぁ、良かった良かった〜〜〜」




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(・・・軽過ぎじゃないかしら、こいつら)

2022/03/31 22:51
カテゴリ: SS。
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