現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜 2
□第三章 Re:start 2 〜 契約 〜
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2012年 2月8日 深夜1時50分
田村は変わらず、何もかもを睨んでいた。
寝不足はそろそろピークに達するが、そんなことはどうでもいい。
(ほんと、私がしっかりしなきゃ)
少しでも目を放すと何をしでかすか分からない彼女のためだけに―――。
今週は邪魔にならない程度にパーンッ!!と頬をはっ叩き、何とか意識を覚醒させる。
明日もまた来なければいけないのだが、そんなことはどうでも良かった。
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今日も無事に終え、残る人と帰る人に別れてゆく。
「田村はまた睨んでたな」
「けど、凄く辛そうね・・・。顔色も悪いし」
「美佳子から聞いたんだけど、自分の時は動きが悪いんだって。アクションも上手くいってないって・・・」
田村と皆川双方を知る高橋から、皆川へ定期的に田村の状態が送られていた。
事情を聞いて、快く引き受けてくれたのだ。
「ケッ。あいつに心配されるほど疲れてるなら、無理して来なきゃいいだろが」
「けど純ちゃんの戦闘は、田村さんが許可を下ろさないと駄目なんでしょ?無断でしようものなら契約違反になるだろうし」
「そうしないためにわざわざこんなことをしたんだし、こっちからは何も言えないよ・・・」
今にも倒れそうになっている田村を見て、3人は溜息をつく。
「とにかく、あんまり負担掛けないようにしなきゃ。前みたいに無理しすぎて倒れちゃったら元も子もないし」
数年前、自分の騒動がきっかけで消えた岡野を復元するため、田村は自分を追い込んでしまい倒れたことがある。
そのことを思い出して、皆川は軽く舌打ちをする。
結局、自分のせいで彼女を追い込む羽目になっているからだ。
「ただこの件は全く関係ないだろ!?」
重い空気を払拭させるように、小野坂が険しい表情で怒鳴った。
「それまで自分のせいだって考えていたら、それこそ純子の方が倒れるぞ!!」
「昌也・・・、けど、事実だし」
「事実だろうが何だろうが、これは田村が勝手に【本社のため】とかほざいてやってることだ。今更純子を手放したことを後悔してんだろ」
小野坂のその言葉を聞いて、黙っていられなかったのか田村が近付いてくる。
「ちょっと、それはどういう意味ですか」
「お前は、結局、純子に縋るしか出来ないんだろ?」
嫌味ったらしく言う小野坂に、田村は眉間の皺を更に深くする。
「ちがっ、違う!!」
「ほぅどうだがな。他に助けを求めようとしたけど“該当”しなかったから、最終的に純子に決めたんだろ?」
「違う!!私はそういうつもりじゃない!!」
「駄々こねりゃあ許すって問題じゃねぇぞ、田村ゆかり」
「!!」
急にドスの利いた声になり、田村は顔色を失う。
「お前がしていることは全部【本社のため】でも【岡野浩介のため】でもねぇ。日頃の憂さ晴らしと純子への束縛だ」
「なっ・・・!」
「ここまで手の込んだことをしてまで、自分のために行動できて楽しいか?苦しめて嬉しいか?お前それ相当ドS入ってるぞ」
小野坂の言葉に、田村は段々反論できなくなる。
疲れた頭では、この言葉に対するほんの僅かな矛盾を見つけることすら出来ない。
そんな田村をこれ以上見ていられないと思った皆川は、二人の前に飛び出した。
「もういい加減にして!!!!!!!」
その一言だけで、静寂を作る。
皆川は何とか嗚咽を漏らさないように深く息を吸ってから、双方をゆっくり見た。
「・・・もう、帰ろ?時間も、遅いしさ」
最初の時と同じような言葉を、もう一度言う。
「・・・そうですね、もう帰りましょう」
「だな」
助け船のお陰で陰険な空気が消え、田村は踵を返して帰って行く。
その姿を見届け、皆川は小野坂を睨んだ。
「昌也、どういうつもりなの」
「だ、だから俺は、事実を―――・・・」
「余計田村さんを追い込ませてどうするのよ!!私の話ちゃんと聞いてたの!?」
「う・・・」
「純ちゃんの言う通りよ。まさヤング、頭に血が上りすぎ」
先程から呆れていた甲斐田は、大きく欠伸をする。
「もう3時・・・、私明日仕事なのに」
「あ、私も・・・」
「・・・時間、無駄にして悪かったな。俺も仕事だし」
皆川はハンカチで涙を落とすと、ギョッ!とした。
「ま、マスカラが・・・、顔が酷いぃいいい」
「どうせあとは化粧落として寝るだけだし、良いじゃないの」
「部屋に戻るまでが恥ずかしいんだよっ!!」
「あんたすぐに泣くから」
「ほ、ほんとに悪かったな・・・」
張りつめていた空気が一気に緩んだお陰で、少しは肩の荷が下りた。
「―――あ、今度の放送はバレンタインじゃない!?」
「あ〜〜〜、15日、日付変わって16日だっけ。もうそんな時期か〜〜〜」
「また何か作るのか?」
「勿論っ☆乙女の日ですからっ♪」
「純ちゃんほんとこういうのには敏感よね」
「とーぜんっ!」
「あはは、楽しみにしてるな」
(・・・ゆかりんにも何かプレゼントしなきゃ)
去り際の背中を思い出し、皆川は表情を暗くした。