現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜 2
□第二章 Re:start 〜 決離 〜
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―――「こんにちは」。それが、彼女が自分に最初に言った一言だった。
あの時の自分は何も知らない上に、【何処にでもいるありふれた普通の人】だと思っていた。
しかし実際は、岡村明美の過去を保有していて、しかもいきなり初回から誰かに狙われていたらしい。
(もはや中二病の域越えてんなぁ)
それからはもう、毎日がいろんなことの連続だった。
【思い出】―――なんてそんな綺麗なものではないが、自分は彼女らに出会って、見るもの感じるもの全てが大きく変わった。
(隣に誰もいないのって、寂しいなぁ・・・)
深夜帯はスポンサーや局の都合で、あまりアニメを放送していない。
深夜アニメは増えてきてはいるが、曜日がバラけているのが普通だった。
それだけは、少し寂しかった。
前まではのんびり談笑したり、情報交換したり、隣の作品を見ていたりと楽しかった。
(まあ、そんなこと気にしてちゃ駄目だよなぁ。しっかりしなきゃっ!)
寒さで赤くなった頬を、両手でペチンと叩く。
「んじゃ、お先どうぞ」
小野坂に促され、皆川はあの日と同じように局内へと入っていった。
―――
集合場所へ向かうと、お馴染みのメンバーが集っていた。
「あけおめっ!」
珍しくそう挨拶すると、皆川に気付いたのかメンバーが笑顔でやって来る。
「純子はん遅かったやんかー!わいらなんて何十分も前から来てたよ」
「あまりにもドキドキしすぎちゃって・・・。はぁ、出番あるかなぁ」
「あれ?ゆうちゃん髪切ったの!!?失恋!!?」
「ちゃうちゃう。イメチェン☆」
杉本は、切った髪を見せるようにクルンッと回る。
ショートとまではいかないがいつもの小さなポニーテールを止め、ふんわりパーマをかけていた。
「ちょっとな、心機一転したかったんよ」
「俺ビックリしましたよー!杉本さんに一体何が!!!!?って」
「ホセは驚きすぎだろが」
ザワザワと番組開始まで話をする中、出演者じゃない人物が皆川達の元へとやって来た。
「こんばんは」
彼女は、凛とした佇まいで挨拶をした。
「・・・えっ、ゆかr「“ゆかりん”って言わないで下さい!!!!!」
“本社モード”の田村が、凛とした雰囲気から一変、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「私、本社の為にここへ来たんです」
「えっ?どゆこと・・・?」
「おい田村、どういうことだ、俺は何も聞いてないぞ」
「だって全然話していませんもの、当然です」
「だからって勝手に決めるな!!権利はこっちにあるんだからな!!!!」
突然小野坂と田村が口論になる中、その中心にいる皆川だけがついていけない。
「ちょっ、ちょっと待ってどういうこと?何権利って、ってか、“本社の為”って何?」
割って2人の間に何とか入ると、田村は溜息をつく。
「・・・本当は嫌なんですけど、こうするしか無かったんです」
「だから、それがどういうことなの?本社の為って、何かあったの・・・?」
大体察しは付く。田村が言いたいのは、岡野のことなのだろう。
―――岡野は去年の2月、突然監視部長を辞めると発言した。
そして、副部長だった田村が監視部長として地位についた。
だがしかしそれ以降、本社は低迷していると川上から聞いていた。
「多分ゆかりんは、岡野の築いてきたものを壊したくないんだろうね。慕っていたから尚更」
岡野が創り上げてきた本社を、田村は大事にしたい。
それが原因なのか彼女にとっての足枷なのか、田村はどうも迷走していた。
「田村さん、またどうして・・・」
「だから言ってるじゃないですか。本社のためだって」
「だから―――」
―――何故、嫌な思いをしてまで自分の所へ来るのか?
皆川は、田村が自分を嫌っていると思っている。
尋常じゃないほどの騒動を起こしておいて、それでも必死で庇う岡野を見て嫌気が差すほどだ。
自分の権利譲渡も、平気で頷くほど―――。
そんな皆川から離れるように、田村は少し距離を置く。
「・・・とにかく、頼りたくはないのですが、貴女を監視させていただきます」
そして突きつけるように、ある書類を見せつけた。
「何、これ・・・?」
「それ、わいらがやった放送許可書やないんか?」
「あっちょっ杉本さん!!このタイミングでそれを言っちゃうのは不味いですよ!!」
細谷と杉本がギャイギャイ話す中、田村は静かに言った。
「これは、皆川さんへの許可書です」
まるで当て付けるように、皆川へと叩き付けた。