現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜
□第九章 この手を離さないで。
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―――何かを【一つでも】失うことは、同時に、全てを失うものなんだと、この時初めて気づいた。
―――
2010年 某日
来年一発目の大型イベント開催に向け、各自学校別稽古がスタートした。
「あ〜〜あっ、せっかくほそにゃんがゆうちゃんと仲良くなれたのに、稽古見られないなんて・・・。つまんないわっ!」
「純ちゃん、それ以前に私達も頑張らないと!!マジ四天宝寺侮れないし(※有明時を思い出し)」
「けどそん時ってまだ、細谷は何も知らなかったろ?テントの骨組み持って争ってたのは知ってっけど」
本日は皆川達が稽古の日だった。
「俺がしたのは操られてで、決して本心じゃないよ!!?」
「はいはい。本心だったとしてもどっちでも良いわよ」
「いや良くないよ!!評判がた落ちだよおばちゃん!!」
「“おばちゃん”言うな!!」
細谷のライブ時、照明を落とし、細谷に大怪我を負わせた張本人の置鮎は半泣きで抗議した。
「その犯人は、杉本がとっ捕まえたんだろ?意識を落として操り人形にするって、厄介極まりないしな。自分の意志とは真逆だし」
「成君やほそにゃん自身も操られたらしいしね」
「あの時は俺、全く自覚が無かったや・・・」
「成君のせいじゃないわ。こいつは完璧に悪いけど」
「えええっ!!?まあ確かに、ある程度意識ははっきりしてたけど、照明を落としたのは違うからね!!」
「ああそう、言い訳は何でも言えるしね」
「おばちゃんっ!!?」
置鮎を足であしらう甲斐田を余所に、稽古は始まった。
「―――って、勝手に始めるな!!!!」
「じゃ、じゃあおばちゃん・・・、いい加減この足退けて―――」
「煩い黙れ死ねっ!!!!」
―――
数日後
「・・・な、何でみんな知ってるん?」
「知ってるも何も、雰囲気で分かるよ〜〜♪」
「二人共仲が進展してるというか、夏に何かあったんでしょ?」
本日は、四天宝寺が稽古の日。
夏の騒動のお陰で杉本は『一人じゃなくなった』のだが、
反面、細谷との仲の深さに周りのメンバーがニヤニヤしていた。
「べっ、別に何もあらへんって!!ただちょっと、色々あっただけ―――」
「あ!細谷君のライブでしょ?ゆうちゃん凄く心配してたs―――「内藤はん!!!?」
顔を真っ赤にして必死に抗議する杉本に、周りは更に面白そうにする。
悪いとは思うのだが、あまりにも反応があからさまな上にこうも必死で抗議されると、“おもちゃ扱い”したくなる。
すると、細谷がやっとそれに気づき、心配そうに歩み寄ってきた。
「ちょっとちょっと、あんまり杉本さんを弄らないでくださいよ」
「おっ!噂をすると〜〜っ♪やっぱり止めちゃうよねぇ」
「俺はただ、杉本さん困惑してますから、止めてって言ってるだけですよ」
「あ、そう言う細谷さんは何か進展ありました?」
「おっ、熊渕君聞いちゃえ聞いちゃえ!!」
「な゛っ!!お、俺はぁ・・・」
瞬間、ドガッ!!と大きい声が響き、揺れる稽古場。
一同は何事かとキョロキョロすると、壁を拳で叩いた大須賀に目がいった。
その壁に亀裂が入っていて、原因はこの人だとすぐに気づいた。
「そんな話は良いから、とっとと稽古始めようか。部長。みんな♪」
「ぴっ!!」
笑顔を向けつつの、しかし周りには何かどす黒いものを感じ、全員凍り付いた。
ふと、杉本は手首にある印に目がいった。
(・・・あれ?何か亀裂入ってる気が・・・)
あの印は、【あくまで普通の人として、“所有者”を知る】契約のもの。
田中曰く、『本人も“所有者”になれば消える』と言っていた(過去に國分やニーコもその印を付けていた)。
(まさか・・・)
―――さっきの揺れも、大須賀が?
現に彼は、拳を痛めるどころか普通にしている。赤くなってすらいない。
あれだけの振動と衝撃を与えたのに、ビクともしていない。
(まさか、な)
「杉本さんも早く始めましょ」と言った細谷の声で我に帰り、杉本も全員の元へと向かった。