現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜
□第五章 歌。
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―――2009年 9月
―――ただ、横目で彼女を見ていたあの日。
俺はあえて、目線を反らした。
何も興味を持たないまま。何も気づかぬまま。
―――もう少し早く、彼女を知れば良かった。
その“後悔”だけが、今俺の中に存在している。
―――2009年
「俺が、アルバムですか!?」
テニフェスが終了して、一段落ついたある秋。
俺は突然のことに、驚きが隠せなかった。
―――2010年
短期間で創り上げた2枚のアルバム、そしてそれを引っさげたソロライブ開催。
俺は去年の暮れから慌ただしい日々を過ごしていた。
「お〜〜、やっとるな」
「杉本さん、どうも」
「これ、差し入れやけど、食べれそう?」
「食欲はありますよ〜〜」
杉本さんにアルバムリリースを教えたら、もの凄く喜ばれて、ライブのことを話したら、こうやって助けてくれた。
「今年暑いんやって。熱中症に気をつけんなんな」
「そうですね。心配、ありがとうございます」
「別に気にせんといて。わいは細谷はんが頑張ってくれたら、それでええねん」
こうやって稽古場に来て、俺に差し入れを持ってきてくれる杉本さんに、安心していた。
2004年に、皆川さんの“ミンナココニイタ”が、『テニプリ』キャラ初のソロライブだったそうだ。
つまり、俺は6年ぶりのソロライブ開催になる。
てっきり、誰かが過去にライブしていたもんだと思っていたから、俺にビックリした。
「そういや、幸子はんがみゃあみゃあ言っとったわ」
「ぅえっ!?何でですか?」
「スポットライトに当たりたかったんやって」
「えええ・・・、めちゃくちゃ緊張しますよ?」
「まあまあ、細谷はんは細谷はんのライブをすればええんやから。初めてやね、個人は」
「だって俺、100曲マラソンと去年のテニフェスだけですよ?あとは発売イベントで歌ったぐらい・・・」
「歌詞カードぐしゃぐしゃのか?」
「あはは・・・」
こんな稽古のひとときを、俺は楽しんでいた。
杉本さんは毎日毎回、何か旅行に行ってきたかのような手みやげを持って、俺の所に来ていた。
時々、すかじゃんや甲斐田さん、(プレッシャーになるのに遊びに来られた)皆川さんなど、稽古場はいつも賑やかだった。