現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜
□第一章 “新しい居場所”
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―――2005年 5月
都内にある、とあるビル。
そこに入る、アニメ専門チャンネル・アニマックス。
デジタル化に合わせ、空間そのものが全面データ化され、作品・人々もこの空間内では『データ』として管理されている。
そのテレビ局独特の長い廊下を歩くと、奥のひっそりとした所に“監視室”がある。
関係者以外立入禁止の部屋に入ると、男性が一人大量のディスプレイを見ながら、キーボードを操作していた。
「―――岡野」
誰かに名前を呼ばれ、男性―――、岡野浩介は、後ろを振り向いた。
「おっ、川上か。俺に何か用か?」
「別に用が無くても、遊びには来るよ〜〜」
川上は部屋に置かれたソファーに腰を下ろすと同時に、お茶が置かれる。
「どうぞ」
「あっ、ありがと〜〜、田村さんっ♪」
田村ゆかりは川上にやんわり笑みを浮かべると、御盆を持って部屋を出た。
冷たい麦茶を身体に流し込むと、川上は本題を切り出した。
「岡野に話しに来たのは、リョーちゃんのことなんだよ」
「“リョーちゃん”?誰だよ・・・」
「う〜〜ん、今丁度、『ファンタジックチルドレン』ってやってるでしょ?その主人公」
去年に始まった番組で、それを聞いた岡野は出演者リストをすぐさま呼び出し、確認した。
「あっ!!分かった分かった。皆川―――、この人か?」
そう言って、小さな液晶ディスプレイを呼び出し、まるで履歴書を丸写したような画像を映し出す。
「うん、この人だよ」
「それで、この人の件について、川上は何が言いたいんだ?」
岡野は皆川の画像を映していたディスプレイを消すと、身体を完全に川上に向き直す。
「実は・・・、岡野に、番組を入れてほしいの」
「な〜〜んだっ、そんなことか―――、
っておいっ!!!!!!!また無茶すんじゃねえって!!番組取得すんの、結構大変なんだぞっ!?」
川上の何となく言いたいことを察した岡野は、血相を変えて慌てだした。
「そこでなんだよっ!!お願い岡野っ!!今年の夏のマラソン放送、番組枠が足りないって嘆いてたよね?お試しでもいいからっ!!」
「お試しって・・・、無理だって!!そもそもその番組、終わった今でも人気あるだろ!?入れられるかどうか・・・」
更に、もう一つの専門チャンネル・キッズステーションが、その作品の特集をリアルタイムで放送されていた時から組んだりしていて、もう入ることが業界内で確定すらされていた。
「それがね、キッズの野川さんが特別に放送許可を出してくれたんだよっ!!だから岡野お願いっ!!それに、このままだとリョーちゃんが・・・っ!」
ただでさえ、この時の皆川は精神的に不安定で、何時自分の身体が壊れてもおかしくないほどボロボロだった。
“昔からの友人の頼み”と言うこともあり、岡野は遂に折れた。
「・・・わあったよ。何とか話つけてみるから」
「ほんと!?」
「だけど、やるかどうかは分からねぇからな!」
「ありがと〜〜岡野っ!!」
「いやだから・・・、はぁっ。川上。本当に人の話、聞かねぇな・・・」
そうは言うものの、やはり“友人”に喜ばれると、こちらも嬉しい。
その後、岡野は上に何とか話をし、後日、皆川の番組の放送権を何とか取得することが出来た。