現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜 2
□第三章 Re:start 2 〜 契約 〜
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2012年 2月1日 深夜1時50分
田村は相も変わらず、書類とスタジオを交互に見ていた。
(今日も何事もなく始まったわね)
寝不足気味な意識を回復させようと、頬を強く叩く。
(とにかく、1秒でも目を放さないようにしないと・・・。何が起こるか分からないし)
あの人は、少しでも目を放すと何をやらかすか分からない。
田村は相も変わらず不審そうな目をして、皆川を睨んだ。
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睨まれている皆川は、そんな視線が悪寒へと変わって身体に伝わった。
「!!!!?」
「・・・あいつ、ずーっと純子のこと睨んでるな・・・」
同じく眼を細める小野坂が、そっと耳打ちをする。
「ったく、別に純子は犯罪を犯した訳じゃねぇのに・・・。どんだけ心配性なんだか」
「まあ、不安なんだよ、きっと」
―――この間、細谷が自分にあることを話してくれた。
それは、杉本と永井にも話した、田村の来た理由だった。
「―――って、俺は思ったんですけど・・・」
「う〜〜〜ん。私が言うのもアレだけど、その線で合ってると思うよ?じゃなきゃ田村さんもここまでしないだろうし」
珍しく深く考えていた皆川は堅く組んでいた腕を解くと、頬杖を付いた。
「けど、何でそこまでして私を気にするんだろ・・・。別に私なんかいなくても大丈夫な気がするのに」
「『岡野さんがいなくなって、國分さんも辞められて焦ってる』ってとも子さんは言ってました」
「それと私の“約束”を因縁付けるほど、相当厄介なことになってるのかしら」
相変わらず頬杖を付いたまま、皆川はしばしまどろむ。
「・・・“約束”ってさ、そんなに相手を束縛するほど残酷なものなのかな・・・」
「えっ?」
ポツリと、はっきり聞き取れるか取れないかの小さな声が耳を掠める。
驚く細谷を余所に皆川は立ち上がると、大きく背伸びをした。
そしてそのまま踵を返し、部屋を出ようとする。
「ちょっ!?皆川さん!!?」
「喉乾いたから、飲み物取ってくるよ。ほそにゃんも飲むでしょ?」
顔も向けず、返事も聞かずに部屋を出た皆川に、細谷は呆れたように溜息をつく。
(ああ多分、泣きそうな顔を見られたくないんだな)
自分のたった一つの“我が儘”が原因で、彼女達を振り回していることに罪悪感を感じて。
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本日の放送も無事に終わり、何事もなく解散となった。
「みにゃ〜〜〜っ☆一緒に帰りましょっ!」
永井が、帰ろうとした杉本と細谷にタックルをした。
「ぅぐっ!!」
「ぶぶっ!!」
見事に仰け反った二人は、痛めた腰を涙目で撫でた。
「みゃっ?だいじょーぶですかぁ?」
「幸子はんっっっ!!!!!あんたちょっと加減しいやっ!!危うく腰の骨が逝くとこやったやろが!!!!!」
「ギックリ腰って・・・、冗談抜きで痛いんですね・・・」
「え、細谷はん?あんた大丈夫か?まさか、あんたやられたんか!!!!?」
「ほみゃ〜〜〜?カルシューム不足ですかぁ?」
「それを言うなら“カルシウム”!!細谷はんしっかりせぇ!!!!」
「た、立てない・・・。足も動かせないぃ・・・」
「細谷はああああああああああんっ!!!!!!?」
杉本が細谷の身体を揺らす中、増田が何故か泣いていた。
「うううう・・・、永井さん最近あいつらとばっかりぃ。冷たいよぅ・・・。ああけど、放置プレイも堪らんv」
「まっすんキモイよー。ってか、眠いし帰るぞー」
津田に引き摺られる中、増田はふと書類をまとめている田村をチラッと見た。
(あいつ・・・、「“力”が無い」とかほざいておきながら、危険地帯には足を踏み入れるんだなぁ)
前に本社で会話を交わした際、田村は何処か弱そうにこう言った。
『私には“力”が無い』と。
(―――無駄死にしなきゃいいけどな。死ぬにはまだまだ惜しい存在だし)
ふっと笑うと、「まっすん何笑ってんのさ」と突っ込まれた。