10/12の日記
17:04
終わり良くても全て良くない。>10月10日 7。
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◆追記◆
―――私達は、絶賛空から落ちていた。
“落ちた”、と言う出来事を得た瞬間、身体は重力に逆らえなくなった。事実を認めるとまさにそれが起こる厄介な思考のせいだ。
「ぅおわあああああっ!!!?」
「何で帰りは重力に逆らえないの〜〜〜っ!!?あははははははっ!!マジで【神】クソくらえよね!!」
「んみぇえっ!!?甲斐田しゃんがぶっ壊れた―――っ!!」
「―――永井!!“飛ぶ”ぞ!!私がゆきちゃんを拾うから、お前は樽たんをお願い!!」
「みゃっ、はいぃっ!!」
私は風圧じゃなくて重さで落ちてるけど。って重さ言うな!!!!ぐあーっ!!
・・・正直、宙に浮いてるタイミングで翼を出すと風圧で痛めるが、やむを得ない。
2人で翼を出すと、パラシュートのように少しだけ身体が重力に逆らった。その僅かな動作で、飛ぶ為に必要な動作を行った。
(羽の1本1本に空気を取り込んで、―――羽ばたく!!)
体勢を整えて、私はゆきちゃんを、永井は樽たんを指示通りキャッチする。そして、ゆっくり地面へと下ろしていった。
**
地上には、ある人達が一連の流れを見届けていた。
「細谷はん、どうにかなりそうか?」
「ええ、まあ。俺ですからね。それに杉本さんに頼られてますからフゥッフゥーッ!!」
「・・・調子に乗らんでくれる?」
「あっすみません」
細谷は、何故か現地に来ていた杉本と合流して、野島の“術式”情報をチェックしていた。
関から【近くにいる人で、誰か会場周辺の異常があれば調べてほしい】と一斉メールで届いていて、その一番近くにいたのが自分達だった。
ふと、杉本が頭上を見上げて、驚きの声を上げた。しかし細谷は“術式”を見ていた。
「―――ん?細谷はん、あれっ!!空!!」
「ああ、向こうも一区切りがついたんですね」
「一区切りって、とも子はんか?」
杉本の問いに、細谷は答えない。
それを肯定の意と捉えて、空を見続けた。
「・・・良かったな。純子はん」
心の底から安堵するその声に、思わず抱き着きそうになったがはっ叩かれると判断してやめた。
何とか理性を抑えられるほど、自分は成長してると思う。俺エライ!!(by直純さん)
**
「・・・あれが、“あんたの望んだこと”なの?」
「結果としては、そうですね」
細谷&杉本とは真逆の位置で、杉田と釘宮が空を見つめていた。
杉田達は、最初から影ながらに皆川の選択を見届けていた。
「いやあ、ここに来るまでが長かった。本当に、長かった」
どんなに同じ領域に入れたとしても、自分はあの人とは違う。出演者になってもやはり違う。
(やっぱり、俺は身内と言うよりライバルとしていた方が、皆川さん的にも助かると思うんですよね。お互いに仲良くするのは性に合いませんし)
1人の人の為に、ぶつかり合う貴重な存在。それで良いと思った。
「とは言っても、またゴリラがやらかして、許斐先生から直々のお呼び出しとかなければの話ですけどね」
「あれほんと心臓に悪いから、マジでやめて」
「あれには俺もぶったまげましたよ。だって、まさかご本人が来るなんて思わないじゃないですか。うちのゴリラでさえ、あまり顔を見せないと言うのに」
「あんまりゴリラゴリラ言わないでよ・・・。ゴリラがゲシュタルト崩壊するわ」
とにかく、自分が望んでいたことはこれでひとまず叶った。今はそれを祝福しよう。
杉田が踵を返すと、釘宮も後に続ける。
(ははっ、ほんと、あの人達は面白いな。外野として見てる方が遥かに面白い)
ここが一区切り。でも、まだまだ中間かもしれない。
見えない“未来”を、あの人はどう突き進んでいくのだろうか。姫が見たかった“世界”を、彼女は作ることが出来るのだろうか。
(―――とりあえず今は、本当にお疲れさまでした)
心の中で呟いて、この場を後にした。
**
地面に着地したと同時に、時間が戻った気がした。今まで私達の時間だけが止まっていたような。
【その考えは、合ってますよ】
「んみぇっ、どういうことだ?」
【常世と神界では、感じる時間の流れが違います。まあよくあるナンチャッテ体感ってやつでして、あちらでの数時間は、こちらで言う数秒から数分程度です】
永井がアマテラスからの説明を私達に説明すると、樽たんが首をかしげた。
「つまり、今何時?」
「新垣、それはつまりで繋げる言葉じゃないわ・・・」
「今8時50分だって。私が川上に連れていかれたのが8時10分頃だったから、現実では40分だったんだ・・・」
結構時間が経ってた気がしたけど、これが亜空間体験時の時間経過の違いか・・・。
(死後の世界扱いになるから、こっちの時間をなるべく止めてくれてたのか。“暴走”して崩壊してても、川上らしいなー)
ほっこりしていると、ゆきちゃんがいきなり大きい声を出した。もう既に私服に着替えてるけど、通行人にバレるから!!
「あら、もう後夜祭始まってない?急いで戻らなきゃ!!」
「ゆきちゃん!!?元気だなーっ!!」
「みゃあ、私も荷物を持ってきて、もう帰らないと。直純しゃんにお礼と言わなきゃ」
「あ、直純さんによろしくって伝えといて?」
「分かりみゃしたよぅっ!」
猛ダッシュで会場内に戻ったゆきちゃんを追うように、私達も会場内に戻った。
すると、後夜祭はまだ始まったばかりで、昌也の大きい声がそりゃあもう通路にまで響いていた。
(昌也、まだ元気が有り余ってるな〜〜〜。元気があり過ぎて、暴走しなきゃいいけど。何か嫌な予感しかしないし)
向こうは私に気づいていない。ゆきちゃんはガッツリ喋りに行っちゃったけど。
と思ったら、トテトテ戻って来た。
「ごめ〜〜〜ん。何かついつい楽しくなっちゃってぇ〜〜〜。純ちゃんはいいの?」
「私はいいよ。名残惜しいけど、早く帰ろ?優香里ちゃんや川上に報告しなきゃいけないことがあるし」
そう言って、こそ痒い気持ちを抱いた。部屋に戻ったら、“β体の川上がいる”。
(ちゃんと消えずにいるよな。多分大丈夫だと思うけど)
『―――任せたよ』―――。そっか、2001年の川上も、私にそう言ったんだ。
私はもういないけど、君なら自分の分も託せると。
(川上、大丈夫。私がいる限り、絶対に忘れさせやしないから)
胸を押さえて鼓動を確認する。1回は死んだことになったけれども、何1つ問題なく動いていた。ストレスによる不整脈も治まっている。
「あ、ごめん。ちょっと水飲んでもいい?喉乾いちゃった・・・」
「いいわよ〜〜。全然待ってるから」
喉の渇きを感じて、残っていた水を飲み込んだ。
その瞬間、
『セックスに決まっとるやろ!!!!!!!?』
飲んでいた水が気管支を通過して肺に入って、一瞬息が詰まった。いやそんなことある!!?
溺れて水を飲み込んでしまったような状態に陥り、まともに呼吸が出来なくなる。
えっ、私また死ぬの?早くね?しかも今度の死因が昌也の問題発言って、昌也呪うよ???
「キャーッ!!?大丈夫!!?大丈夫純ちゃん!!?気管に入っちゃった!!?」
突然噎せた私の背中を、慌てふためいたように撫でるゆきちゃん。
何とか呼吸を整え直したところで、浮かんだ言葉は1つだった。深呼吸をして、危うく死にかけた肺に、目いっぱい酸素を取り込ませる。
そして、吐き出した。
「昌也―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」
・・・案の定昌也のその発言は引っかかり、苦情も相次いだから、後夜祭のみ配信が遅れる羽目になった。
あまりにも昌也のテンションが高すぎたし、私&部長(ストッパー)がいなかったから嫌な予感はしてたけど、まさか最後の最後に余韻をぶち壊す発言をしちゃうなんて。
私も私で川上の件で色んな感情が巡り巡ったのに、昌也のせいですっ飛んでしまった。
2021/10/12 17:04
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