10/12の日記
01:57
導いた答え。>10月10日 6。
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◆追記◆
『何で、何ともないの・・・?ちゃんと“壊した”はずなのに』
(壊した?と言うか、何で槍になってんの?諏訪部さんからの承認が無いと発動出来ないように、ロックされてんのに?)
未だに状況が飲み込めない。あまりにも「何で」が多すぎる。
そもそも私、会場で川上に会って。でも、何か様子が違ってて。いきなり意識を落とされてからは覚えていない。
・・・覚えていない?
(違う。そういう問題じゃない。意識が浮上した時、私にこれが刺さっていた)
ジクジク痛むなって感覚で意識がゆっくり浮上して、無意識に槍を掴んだ。
そして、そのまま引っこ抜いた時に、“やっと覚醒した”。
刺さっていた位置は丁度心臓。そして、川上が言った「壊した」の意味。
『どうして君は、何ともないの。何で・・・』
「川上」
久しぶりに会った川上と姿形は同じなのに、纏う空気はまるで違った。
イザナミの泥のようなものを感じるし、人間特有の“負の感情”のようなものを感じる。神聖さなんて微塵もない。
(野島君のせいで“暴走”してるってゆきちゃんは言ってたけど、“暴走”を引き起こした原因は、私か)
やっぱり川上は、あの時、私に―――。
「―――んみぇえっ!!?」
「!?」
「うわあっ!!」
マイナスなことを考えていると、あまりにもクセが強すぎる声と、めちゃくちゃ和む声がすっ飛んで来た。
「あっ!!永井、新垣!!やっと合流出来たわね!!」
「こんの駄神!!マジで超強引転送じゃねーかっ!!お前1回國分しゃんからちゃんとした転送の仕方を学んで来い!!」
【仕方ないでしょう!!?この方との距離が離れていたんですから!!むしろ、一瞬で飛ばしたことを褒めてほしいですね】
「あ!!!?」
「まあまあさちん、落ち着いて。いやー、ビックリしたわー、歩いてたらいきなりなんだもん」
「はあ、怪我がなくて良かったわ。怪我すんのか分かんないけど」
『・・・』
川上は、私達の外にいるゆきちゃん達の様子を、黙って見つめる。
いずれは記憶から消えてしまうような、些細な会話を。
『・・・懐かしいな。何処か、遠く感じるよ』
「川上、何処まで覚えてる?私のことを」
こんな状態で聞くものじゃないけれども、それでも聞かずにはいられなかった。
川上の空気が少しだけ緩んだ今なら。
『君と初めて会った時は覚えてるよ。うん。それから、また会えたことも』
「定期券のことと、“今日”のことだな。他には?」
優しく言葉を促すも、川上は険しい表情をして頭を抱えた。必死で思い出そうにも、ずっと前に崩壊してしまった“たわいもない記憶”は、もう自分のものではなかった。
(バックアップするほど大事なことはずっと覚えているけど、それ以外はもう、消えちゃったか・・・)
『あとは、えっと・・・、“強い何か”に引き寄せられて、それに触れたら、なんかおかしくなっちゃった』
(野島君の“術式”か。側近が川上の記憶を持ってるから、それを餌にして川上を引っかけたのか)
必ず会場に来ると確信した上で起こした、川上のみをピンポイントで狙った“術式”。
死んだ人にさえ容赦なく攻撃する。この間野島君の方が可愛いと思ったが、前言撤回だ。
最悪過ぎる。しかも、川上の閉じ込めた憎悪をあえて解放して、蝕ませたことも。
『私、どうなっちゃったのかな。なんだか、少しずつね、私が私じゃなくなってきているの。ずっと大事なことを考えていたはずなのに、ずっとずっと、待っていた人がいたはずなのに。それが少しずつ、消えてっちゃうの』
「―――川上、それは、“術式”のせいじゃない」
『えっ』
「それは、お前が【人】としての自分を保てなくなってきているからだよ。死んでから数年経って記憶が零れ落ちていた状態で、優香里ちゃんから“神気”を貰って無理矢理“神化”したから、その崩壊が早まってるんだ。危うく“神化”しかけた優香里ちゃんを、助ける為に・・・」
あの時は「君を助ける為にね」と言っていた。でも本当は、死にかけていた優香里ちゃんを助ける為に、身代わりになった。
川上はいつもそうだ。肝心なことははぐらかして、自己犠牲で静かに消える。
居ても立ってもいられなかったのだろう。寿命じゃなかったのに、生死を彷徨っていた姿に。知らぬうちに【神】になりかけた彼女を。
(分かってた。全部。だって私には、“川上がいた”)
**
私が消えかけた時、川上は自分の“体力”を分け与えてくれた。
いつもの笑顔で、「これで大丈夫だよ」と。お陰で私は、今もこうして生きている。
でも、半分になった川上は、思うように“力”が振るえなくなっていた。“転生術”も。
なのに平気なフリをして、何とか振り絞って私達を助けてくれた。私はそんな川上に甘えてしまった。(ああ、何ともないんだ)と思い込んでいた。
(亜希子ちゃんを庇ったのも、刃物に対して必要な本数の弓矢が出せなかったから、間に合わないと判断して飛び出した・・・)
川上の行動を思い出せば思い出すほど、どうして私はあの時止められなかったのか、後悔する。
直純さんも、『ギリギリまで、ほんとーに、死ぬギリギリまでそんなこと一言も言わなくて、ギリギリになってやっとポツリと一言言って・・・』と嘆いていた気持ちが強く分かる。
(それなら、今みたいに私を本気で殺そうとしてくれた方が良かった。そうされても文句は言えないし)
小林沙苗の意見はもっともだ。そして、“一度死んだこと”も分かる。
川上の声が、少し震えた。冷静さを取り戻してきていたようだ。
『私、また駄目なのかな・・・。また、君達の傍にいられないんだね・・・』
争いとか宿命じゃなくて、ただ傍にいてたわいもない話をしたり、一緒に笑うだけで良かった。
だから川上は、即死覚悟の“転生術”を使わず、最後まで抗うことを決めた。生まれ変わるより、自分を維持していたかったから。
・・・誰を待っているかは、この川上とのリンクが切れた私には分からない。
―――だけど、“私の答え”を伝えなければいけない。川上と言う人物を無かったことにはさせない。
持っていた槍を、一振りで刀の状態に戻す。この方がしっくり来る。
3人が黙って見守る中、“術式”の効果が解けてきた川上に近づく。
「―――馬鹿じゃないの」
『ぅえっ!!?』
「馬鹿ってか、大馬鹿だよ、川上。何で自分から消えようとすんの」
『んなこと言われても・・・、よく分かんないし』
「分かんないってだけで、簡単に自分を手放そうとすんな!!何で死んでからの方が弱いんだよ!!お前3年ちょいも踏ん張ったじゃんか!!?」
『っ!』
昌也みたいに感情がそのまま出てしまったが、そうじゃないと駄目だった。
今の川上は、もう自分さえ理解出来ていない不安定な状態。イザナミと違って姿はしっかりしているが、生前の記憶が朧気で、今も崩壊は進んでいる。
辛うじて私とのターニングポイントは覚えている。そこが“決め手”だった。
「川上、私は、お前を絶対に忘れない。―――忘れたくない。例え“世界”がどうしようもない理由でお前の生きていた証を変えていったとしても、私だけは、川上がいたことを忘れない。【川上とも子】は確かにそこにいたと、私が死ぬまで憶えているから」
“世界”は、どう足掻いても変わっていく。どうか変えないでと願っても、作品やキャラクターまで本当に死なせることは出来ない。
そして、他の人達も川上のことは忘れていく。その声さえも思い出せなくなるほどに。
―――だから、せめて私だけは、川上を忘れない1人になる。川上はちゃんといたんだよ。って、伝える立場でいたい。
私の気持ちを言い切ると、川上は、“笑った”。
ほわほわしてるような笑顔。私が覚えている川上。
「やっと笑ったな」
『!』
私が川上に言われたことを、今度は私が川上に言う。
そういうやり取り、前にもあったな〜と思い返して苦笑すると、川上は察したように自分の両腕を広げた。
その行動に、そろそろタイムリミットだと気づかされる。何時までもこの空間を放置しておくわけにはいかない。
私はこれで終わるんだと刀を構えると、川上は笑顔のまま、私を見た。
20年前の川上の面影が重なった。
『―――リョーちゃん、言った通りだったでしょ?君は、誰よりも凄い人になるって』
「!!」
『それに、君の笑顔は可愛いから、こんなにいっぱいの人が君を助けてくれる。本当に良かったよ。私のしたことは間違っていなかったんだって、胸を張って誇れるよ。ありがとう、私と出会ってくれて』
(最後の最後であだ名を呼ぶな!!これで今生の別れでもないのにっ!!涙で滲んで、手元が狂う!!)
また溢れた涙を何とか抑え、両手でしっかり構え直す。狙うは、“術式”が残る頭部。切り替わった永井の“力”ではなく、川上の“体力”を借りた私の刃で一刀両断するしかない。
これを解いたら、またしばらく川上には会えなくなる。それが何年後なのか、何十年後なのか、それとも私が死んだ時なのかは分からない。
「こちらこそありがとう、川上。でも、さよならは絶対に言わないからな。どうせまた逢えるし」
『あはは、そうだったね。あんまり早くなくてもいいけど、待ってるね』
なるべく痛みを感じさせないように、私は“術式”を切った。
瞬間、暗闇が一瞬で晴れ、目がチカチカするほどの白い空間が現れた。
「っ!!」
【神界が正常に戻されます。皆さん、急いで戻りましょう!!このままだと、異物だと判断されて消されるか監禁されますねー】
「みぇっ!!?んな物騒なことを淡々と言うなですよぅっ!!」
「こっわ!!」
「純ちゃん早く!!手!!伸ばして手ーっ!!」
ゆきちゃん達と合流する直前、川上の方を見た。切った傷は瞬き1つで消え、神々しい空気を纏っていた。
「あの時と同じ景色だ・・・」
「えっ。再会した時と?」
「うん。―――ああ、だから“何もなかった”のか」
完全に何も無いわけではない。“ない”のは川上のものだけだった。
自分の親しい人達から貰った記憶だろう。それらが本社のモニターのように広がり、川上を包んでいた。
「とも子しゃんは、誰かの情報を元に、自分の世界を広げてるんですね」
「亡くなられた方々も、とも子さんが寂しくないようにと思っていたのね。記憶の1つ1つから優しい気配がするわ」
「・・・そうだね」
ふと、身体が宙に浮いた。上なのか下なのか分からないが、“落ちる”感覚がする。
ほんの僅かなタイミングで、【私達が生きる世界】に戻る。
『―――頼んだよ』
風のように声が耳を掠めた刹那、視界が暗転した。
2021/10/11 01:57
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