10/11の日記
21:30
振り返ると。>10月10日 4。
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◆追記◆





上下も分からず“落ちた”3人は、とりあえず身体のどこかをぶつけた。




「あたたた・・・。こ、ここが“神界”?」
「みゃあ、何もないですよね。私達の姿は何とか見えみゃすが、ここが地面なのかさえ分かりみゃせんねぇ」
「もっと神々しいもんとか、めちゃくちゃ禍々してるものかと思ったわー」



3人が思い思いの感想を述べる中、アマテラスだけが強張っていた。




【何なんですか、これ。黄泉の国とも違います・・・】
「みゃっ」




アマテラスの状態に連動して、自分の【魂】も強く震える。不整脈のように感じて気持ち悪くなった。



「うっ」
【あっ!!すみません・・・】
「永井大丈夫?ここに来て、やっと声が分かるわ。―――どういうこと?」




永井を心配する声とは違い、自分を強く警戒する甲斐田の声に、アマテラスは高橋と同じ空気を感じてたじろいだが、自分が分かる情報の説明をした。




【あなたの言う通り、神界は本来、その【神】の心を映します。与えられた自分だけ土地に自分好みの家を建て、造形品を作り、安らぐ場所を作る。そしてそこに、自分の好きな存在だったり、他の【神】を招きます】
「まさに森シリーズみたいね・・・」
「甲斐田さん、それ好きですねぇ〜〜〜」
【それで、私の場合は澄みきった青空に太陽、イザナミの場合は泥と蛇。あとは氏子による私達へのイメージが投影して、場所が出来上がります】
「それが“しんじゃぱわぁ”ってヤツだね」




・・・しかし、ここには何もない。最初から何もないようにも思える。




【そもそも、おかしいんですよ。【神】と言っても元は人間に近い存在。俗世を知っているならば、こんな無なんて、有り得ない】
「風俗に溺れる輩が言う発言と同じだわ」
「ああ、色物は何年経ってもスンゴイねぇ・・・」
「はあ。やっと落ち着きみゃしたよぅ。それで、ここととも子しゃんの関係は?」
「そうそれ!!それよそれ!!それが肝心じゃない!!で、ここは?」




やっと話が戻ってきたところで、アマテラスは“一息ついた”。




【ここが、その方の作り出した神界でしょうね。先ほど放った矢で開いた扉。あの人とこの器の力で導きました】
「と言うことは、とも子ちゃんの心は“無”ってこと!!?」
【“無”だとしても、この刺すような激しい“神気”・・・。早く原因を突き止めないと、取り返しがつかないことになります】
「と言うと?」




こういう常識が通じない相手には、1つ1つ聞くしかない。それに呆れつつ聞くと、




【こうなってしまった原因は分かりませんが、これ以上神界を汚し、他の領域まで侵食してしまうほどの威力になれば、有無を言わさずその方の“魂”が壊されます】
「!!」
【黄泉の国に堕とせる相手なら良いのですが、もし黄泉の国さえ侵食しようとするならば、その時は。ですよ?ですが、皆さん色んな書物で知ってると思いますが、黄泉は神が堕ちる世界です。もし、僅かでも物を口にしたら】
「その時は、もうそこから出られない」
【はい。イザナミ同様肉体を喪い、彷徨うだけの存在になります。自我は残りますが、常世へ行くことも、神界に行くことも、そして、死者の世界に行くことも出来なくなります】
「そうなったら、もう誰とも会えなくなるってことじゃないの!!」
【そうですね。その方が元々【人】ならば、死んだ後に会いたかった人もいるでしょう。それが、永遠に叶わなくなります】




川上を黄泉の国に堕とすか、“魂”を壊すか。問題を解決しないことには、この2択しか残されていない。





「アマテラス、とも子しゃんの気配を探れるか!!?」
【ちゃんとしています。・・・しかし、その激しい“神気”のせいで、こちらが押されています!!】
「ここで立ち止まっていても、時間が無いわね。『何もないのなら、ひたすら歩けばいい』じゃない。どうせ体力もあまり消費しないんでしょ?時間が許す限り、ここの隅から隅まで探せばいいわ」





言うな否や歩き出した甲斐田に、新垣と永井も釣られて歩き出す。



歩いても歩いても、何かにぶつかる感触は一切感じなかった。




「思った通り。ただひたすら広がる無の空間。だったら、歩きやすいわ」
「では、分かれて探しみゃせんか?甲斐田しゃんはそのまま真っ直ぐ、新垣しゃんは左、私が右を探しみゃす」
「えっ、こんな場所で離れ離れになって、大丈夫かなあ・・・」
「アマテラス、何かその手の“加護”は無いの?」
【私を便利屋みたいに扱わないでください。皆さん私の氏子になっていますから、離れ離れになってもすぐ器の元に呼び寄せられます。万が一“魂”を損壊しても、半分は生きてますから大丈夫です!】
「・・・それは大丈夫と言い難くね?」
「う、うん。つまり、半分は2度死ぬってことだよね」
「みゃあ、ちゃんと“魂”のバックアップもしとけよ?この駄神」
【“魂”のバックアップって何ですか!!私の権限上、そう簡単には壊されないようになってますから!!】
「あそうだわ、もし私らが見つけた場合は?」
【その時は、器を無理矢理そちらに飛ばします。で、もう一人も合流させますね】
「超強引な転送ですねぇ―――っ!!?」




引っかかるところはあるが、永井の提案を飲んで、3人バラバラに探すことにした。




**



そうこうしている間にも状況が悪化している気がして、甲斐田は気が気じゃない。




(純ちゃんがいなくなった原因がこの状況と繋がっているなら、かなり不味いわ・・・。今のとも子さんは、何処まで“ズレ”ているのか)




前に皆川が言っていた、川上の“ズレ”。そこに感じた恐怖。




(5ヵ月でそこまで進行しないでしょと楽観視してたけど、判断をミスしたわ。僅かに野島君の気配を感じたし。クソッ!いよいよ死者や神聖な存在にだけ反応するようにしたわね)




彼のやり方も、回数を重ねるごとに姑息になってる気がする。もしくは、自分らが衰えているのか。



人はどうしようもなく老化が進む。いくら能力が優れていても、身体が追いつかない。




言い訳を素直に受け入れつつ、しかし。




(・・・ほんと、現地にいるのに何も出来てないわね。私。あの時も結局は純ちゃん頼みだったし)





今日は来なかった國分や手出し出来ないβ体の川上はともかく、自分はどちらも皆川の傍にいた。



なのに、いざこうなると何も出来ずにいる自分が、情けなかった。2人の問題にどうしても割って入れない自分が。




いつもこの問題に直面した時、自分はただ見守るだけしか出来なかった。手を出そうと思えば出せたはずなのに。





(いくら長年傍にいても、違うものは“違う”のよね・・・。私は部外者になるから。あの2人が感じる以上に、疎外感が強く感じる)




疎外感1つでも、客観と主観で感じ方が全然違う。こちらは主観になるから、こうなってしまった時の精神的ダメージはでかい。





(あの子のことだから、とも子さんが現れた時、まず私らに声をかけようとしたわね。ヘルプか情報整理で。で、こっちを振り向いた瞬間に攻撃されたと考えられるわ)





皆川を連れ去った犯人が川上だと考えるにしても、1つだけ疑問があった。どうしても拭い去れない疑問。




(とも子さんが、純ちゃんを攻撃出来るの?自分の命を懸けてまで、純ちゃんに関係する人達を助けてたとも子さんが?)





自分が覚えている川上とも子は、皆川に対して【絶対】を貫いていた。彼女を悲しませないことは、誰一人死なせないことに繋がって。




彼女を守ることはあっても、直接攻撃することは一度もなかった。β体の川上も同様に。


・・・うん、氷漬けにされた諏訪部はしゃーない。あれは純ちゃんを止める為に急いでたから。とっさの防御反応と考える。許せ。





だからこそ、気が気じゃなかった。アマテラスの言ったことよりも、その行動に。




(とも子さんが私の知るとも子さんじゃなくなっていて、ましてや野島君の“術式”に引っかかって“暴走”してるのなら、純ちゃんが危ないわ)




それこそ、「永遠に一緒だよ・・・」的なヤンデレ気質に堕ちてたら不味いわよねー。とつい危ない想像をして、自分の頭を強くはっ叩いた。檜山ほどではないがまあまあ痛い。あの痛みは格別です。





(・・・ただ、何となくだけど、何かこういう時、あの2人を一番最初に見つけるのは私なんだよな。手出しは出来ないけど、見つけるのだけは早いの)





体力の消費をほとんど感じることなく“無”の中を歩いていると、不意にピリッとした空気を感じた。殻に籠った【魂】にさえ直接触れるような空気。




「!!」



弾かれたように、空気を感じた位置を全身で確認する。



自分の左右前後、回るように確認して、“見た”。




この“無”の中で、自分達以外に色がついている存在を。




(―――いた!!)




気がつくと、走っていた。彼女を“見つけた”ことで、嫌な予感が一気に押し寄せてきた。



自分の目の前、横たわり眠る皆川の前に、川上は立っていた。




しかし、明らかに川上の様子が違う。自分の知っている川上ではない。感情を一切感じず、でも静かでもなく、真顔で横たわる皆川を見ていた。





―――あいつは、誰?




“あいつの手に持っているものは、何?”





(あれ、純子のロンギヌスの槍じゃないの!!まさか、主導権が奪われた!!?)




不味い、不味い、止めないと。急いであいつを止めないと!!



興奮状態に陥っているのに、血の気が引いて身体がやけに冷える。年老いてガタが来ている身体が、悲鳴を上げだした。体力の消費を感じないはずなのに、自分の呼吸が荒い。




もつれてこけそうになる足を奮い立たせ、必死で動かす。




こんなに全力で走っているのに、未だに2人に届かない。ローラーの上を走っているようで、自分の身体は一向に前に進めていない。




そうしている間に、川上が静かに槍を持ち上げ、狙いを定めた。



心臓の位置。そこに刃先の影が出来る。





(ダメッ!!それを使ったら、純ちゃんが!!)





聖遺物にはそれぞれ特性がある。自分が持つ聖杯は浄化効果。永井が持つ十字架は相手を封じる土台。



そして槍は、相手を殺す唯一の武器。




彼女が行おうとする行動は、皆川の【魂】の破壊。そうしたら、永井と同じことが起こってしまう。




(とも子さん―――!!)





やっと距離が近づき、あと少しで彼女に手が届きそうになる。




が、それより早く、川上が槍を振り下ろした。



(あっ!!)




槍が、狙った位置に突き刺さる。強く刺さった反動で、無抵抗の身体が僅かに跳ねた。



跳ねた身体が元の位置に戻る寸前、ガラスが割れたような音が強く響く。




(ああ・・・、間に、合わなかった・・・っ!!)




無茶をした反動が容赦なく自分に押し寄せ、思わずその場で吐いてしまった。




あの音は、【魂】の破砕音。川上の手で、皆川を死なせた瞬間だった。

2021/10/11 21:30
カテゴリ: SS。
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