09/22の日記
13:42
心拍数:150。
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◆追記◆



―――それは、1本の動画が原因だった。


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俺は、あいつの家の前にいた。
部長から「越前は今、アメリカに行っている」と言われてから、一度も来ていなかったが・・・。


(何か、嫌な予感がすんだよなぁ・・・)


急に風の便りみたいなもんを感じて、居ても経っても居られなくなった。


(まさか、越前に何かあったとか?いやいや、あいつならどんなヤバい状況でも、どうにか打開出来るっしょ!!記憶だって、無事に戻ったし!!)


・・・とは思うものの、この胸騒ぎはなかなか収まらない。
と言うか、その越前がここにいるわけじゃないのに、家に来ても何も出来ないじゃねーか。と今更ながらに気づいてしまう。

モヤモヤと苛立ちと呆れた状態で立ち尽くしていると、間抜けた鳴き声が聞こえた。


「ほぁら〜〜〜」
「おっ、タヌキじゃねーか!お前はお留守番か?」


ついいつもの癖でタヌキと言うと、越前の猫―――カルピンは、プイっとそっぽを向いた。
しっぽをパシパシ叩いて、怒ってるらしいイカ耳?ってのをしてるから、タヌキ発言にご立腹みたいだ。


「わりぃわりぃ。で、どうしたカルピン?お前もご主人様が心配なのか?」


何とか俺の方を向いたカルピンに目線を合わせると、こいつはまた「ほぁら」と鳴いた。
越前がえらく気に入っている、空色の瞳。その瞳で、俺のことをじっと見つめる。
しかし、見つめる時間があまりにも長すぎる。猫はあまり瞬きをしないと聞いてるが、これは流石に長すぎじゃね?


「なっ、何だ・・・?」


「―――ほぁらっ!」



カルピンがひときわ大きな声で鳴くと、突然、俺のスマホから音が聞こえた。


「うおっ!!?なっ、何だ!!?」


慌ててスマホをカバンから取り出すと、そこに映っていたのは越前だった。あと、竜崎先生のお孫さんも一緒にいる。


「何だ、これ・・・、何でこの映像が?」


向こうは見るからに夜だった。日本とアメリカの時差は13時間。


(これ、今まさに向こうで起こってることなのか!!?でも何処か、様子がおかしいぞ・・・)


前に越前へ国際電話をしたことがあるが、これを見ていると、そんな単純な話じゃないことに気づいてしまった。
街の様子や越前達の状況、それに、チラッと映ったある人物。


(この人、越前の親父さんじゃねーか!!しかも、めちゃくちゃ若っ!!)


越前の親父さんには、俺も数回会ったことがある。常にはだけた坊さんの格好をしてて、無精ひげを生やしていた。
が、そこに映る姿は、それから数十年も若く見える。


(ってか、まさに“サムライ南次郎”!!あいつ、まさか、過去にタイムスリップしてる!!?)


流石にそこまでとは思わなかったが、いよいよマジで俺の手の届かないところまで行っちまったんだな・・・。
俺は、歯がゆい気持ちを抱えたまま、その映像を見ることしか出来なかった。




〇〇



色々なことがあって、久しぶりの帰国だった。


(・・・と言っても、覚えてない部分もあるんだけど。夢なのか、夢じゃないのか)


夢と言うにはあまりにもリアル過ぎて、でも、現実かと言われると、何とも言えない。
頭は今もふわふわしたままで、正直、俺は無事に日本に辿り着けたのかさえもあやふやだった。
これは不味いな、何とか目を覚まそう、と、手に持っていたジュースを一気に飲み干す。お陰で、少しだけ意識が浮上した。


(それにしても、桃先輩、何で急に「日本に戻ってこい」なんて言ったんだろ。そもそも俺がアメリカに行ってるの、知ってたっけ・・・)


これが最後の別れになるわけじゃないから、黙って行ってしまった。
理由が理由だけに恥ずかしさもあったし、アメリカ行きを伝えることで、桃先輩にあまり心配をかけさせたくなかった。


(あの人、すぐに何でも抱え込んじゃうから。ストレートに言う時もあるけど、秘めてることの方が多いし)


どれだけ心を開いても、どれだけ真っ直ぐにぶつかって来られても、大事なところを秘めていることが多い。
それは俺も同じだと思うけど、桃先輩の場合は日頃が元気すぎるから、余計に気になってしまう。


(やばいな・・・。一言ぐらい、ちゃんと伝えとくべきだったかも)


今からどんなことを言われるのか考えながら、俺は自分の家へと向かった。



2021/09/22 13:42
カテゴリ: SS。
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